少年残像、陰影スモーカー | ナノ
入れれば硬い金属音。
回るシリンダーはキチリと小さな痼りを残して。
あと数センチ、いや数ミリ?
離れた分だけもどかしい。
喘ぐイキモノは眼に野生を残す。
その眼に奪い盗られてしまいそうな、これはどんな感情?
乾いた風が頬を擽る。


【少年残像】



――――引きちぎれ、喰い殺せ。
頭の隅で野生が疼く。自分の下で喘ぐ金晴眼と、多分それは同じ性質のものだろう。
灼熱を宿す身体で頭の中だけは酷く冷静にそう思う。
美しい。美しい。
多分君はこの世で誰よりも美しい。
触れたら火傷しそうなアツさ、声、吐息、それから、

「…ッ ぁ、」

それから。
ドクリ。考えている間にも快感が背を突き抜ける。
身体と心は別の筈なんだ、畜生。こんな身体だけキモチよくて、心は突き動かされることのない行為に一体何故。

「も、…… んぞ。」

ちらりと舌を出す仕草は、凄く妖艶で。
背中に這わされた手が、戦慄に靡く。
限界を伝えるようなその動きは何だかとても愛おしくて。

「…、 くぞ。」
「あぁ ぅあッ!」

初めて一緒に駆け上がりたいと思った。
解放に向かう道のりは、永遠のようでほんの一瞬。
ただその一瞬の間に溶けるような黄金と眼が合った。
瞬間、ああ、駄目だ。
と悟った。
けれどその直後の解放に俺は頭を垂れた。
程なく過ぎる小さな快楽に、気付けば容易く堕ちてしまう。
例えばそれが、蟻の巣ほど小さなものでも。
もがけばもがく程、深みにはまって。

「さん、ぞ」
「…何だよ」
「これでも、俺はまだ子供?」
「……、」

例えばそれが、小さな誘惑でも。
足元がガラガラ崩れるように、堕ちるときは堕ちる。
ぼやけた頭の隅で野生が降伏するのを感じた。





end






せめて少しでも、あなたが残したものに触れてみたくて。
総てを噛み締めるように、肺の奥まで一杯に吸った。
喉と肺にちりりと痛い、煙が部屋に充満する。





【陰影スモーカー】





それを見つけたのは偶然だった。
偶々荷物を掻き分けた時に、見知った赤色のパッケージがまるで荷物の底から湧いたように出てきたから。
忘れてんなよ、バカ。コレ無いと、すぐ苛々する癖に。
カサリと音を立てて俺の手に馴染むそれは、あなたを象徴する数少ない一つだから。
薄いフィルムがごく自然に開かれていて、覗き込むと数本だけ残った煙草が出てきた。
なんだか凄く久しぶりに見た気がして、思わず苦笑する。
そうだ。
連れ出してもらったあの日から、この煙草が匂わない日は1日たりとも無かったっていうのに。
それを吸うのは、彼に固く禁じられていたけれど、もういい。
何も告げずに去ったのは向こうの方だ。
構わず1本拾い上げて、口唇へと押し当てた。
固くも柔らかくも無い微妙な感触のフィルターを、少しだけ噛んでみる。
じわり、中の柔らかい部分が歯に当たる。
その何とも言えない感触も、訳も判らずに煙草を噛み締めている自分にもなんだか凄く可笑しくなった。
ケタケタと声を声を上げて、1人で床へと転げ落ちた。反動で煙草も床へと転がる。
どうかしてる。
可笑しい筈なのに。
可笑しい筈なのに、何で俺は泣いてなんかいるんだろうか。
三蔵が去ったあの日から、俺は一度も泣いてなんかなかったのに。
煙草を口にした瞬間、欠けていた半身が急に満たされたような感じがして、なんだか可笑しくて涙が出た。
ただそれだけだ。
ついでだ。もうヤケクソで火を付けた。
慣れない煙草の煙が目に入って、俺の目からは益々涙が止まらなくなった。







end





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