チューリップの花束


白いチューリップはとても珍しい。まず店頭に並ぶことは稀だし、並んだとしてもどこか物悲しい白いチューリップを選ぶお客は少ない。人々が手に取るのはやはり赤やピンクや黄色なのだ。結果として白は売れないので、入荷しない。そんな店が多い。
そんな中で、うちの店は例外的とも言える、白いチューリップを取り扱っている数少ない店の一つだった。毎年それを注文するお客がいるからだ。

「白いチューリップを花束にしてくれ。25本で。」

よく通る低い美しい声で、同じくらい美しい金色の髪を揺らして、彼は言う。毎年1月31日、全く同じ日に。気づいたのは彼がそれを買い求め始めてから3年経った頃だった。
いつもありがとうございます、と私は言う。リボンはどうされますか?と問うと、彼は少し伏し目がちに「…紫」と言った。少ししてその瞳の色が紫なのに気付いた。何故気付かなかったのだろう。数秒考えて、思い出した。たしかいつもは眼鏡をかけていた。その証拠にスーツの胸ポケットからは銀の細いフレームの眼鏡が覗いている。
お作りいたしますので少々お待ちいただけますか、と言うと、彼は薄く頷いて店先へ踵を返した。また、金色の髪が揺れる。なんて細く美しい金の髪だろう。後ろから見るとまるでポスターを切り取ったようだった。彼は物凄い美貌を持っていて、その上スタイルもいい。少し着崩したスーツがとても決まっていた。
それから手早く白いチューリップを花束に整え、光沢のあるリボンをかけた。薄い紫よりも濃い紫の方がこの花束には合う。

お待たせいたしました、と彼に声をかけると、振り向いた彼は煙草を咥えていた。
25本ものチューリップの花束は少し重い。紙袋にお入れしましょうか?と聞くと、彼は首を横に振った。そして徐に代金を差し出した。
奥様、喜ばれますでしょう。お釣りをお渡ししながら何気なく口にすると、その紫の目を大きく開いた。
「何故だ?」
今日は愛妻の日ですから。と告げると、彼は自嘲するように笑った。口の端だけ歪めた、彼には似合わない笑い方だった。
その時思い出した。白いチューリップの花言葉。ーーーーー失われた、愛。
彼はそのまま店を後にした。花束をこれ以上ないくらい大切に抱いて。
私は何だか、あの花束を受け取る人はもう居ないのではないかと思った。真実は分からない。しかし、毎年同じ花束を購入する彼の愛と、悲しいくらいの想いは目に見えずとも間違いなくそこにあるのだ。チラチラと雪が降っていくのに、傘もささずに歩く彼をずっと見送った。
彼の肩にそっとこうべを垂れる白いチューリップが静かに揺れていた。












2015年愛妻の日。
悟空たんが25歳で死んでしまったという私的設定。花束買う日は命日。愛妻の日全くかすってないorz





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