かみなり | ナノ
かみなり


遠くで音がなった。鋭い予告、それから地を割るような轟きを、三蔵の腕の中で悟空は感じた。
部屋には厚い黒の遮光カーテンが引かれている。だから三蔵の寝室は昼だろうと夜だろうと真っ暗だった。外からの光や音は睡眠に必要ないから。呟くように告げられたそれに、ああ、そういうものかな。と納得したことを思い出した。
確かに厚いカーテンはほぼ全ての光を遮っていたが、音となると話は別だった。布だけでは音を遮ることはできない。つい先日、小鳥のさえずりを聞いて朝を感じたことを思い出した。雷は小鳥と比べるべくもなく、重く、鋭く、圧倒的な神の音なのだ。遮れる筈もない。
思考を巡らせているうちに、また次の雷が落ちたようだった。まんじりともせずに、それに耳を傾ける。目を閉じて、視覚だけを研ぎ澄ますと、三蔵の寝息が聞こえないことに気付いた。きっと先程の音で目を覚ましたに違いない。確証が持てないのは、彼の顔が見えないからだ。向かい合って臥せっているけれど、悟空の頭はちょうど三蔵の鎖骨の辺りに収まっているせいで、彼の顔は頭を起こさないと見えないのだ。

「…落ちたな」

ひそりと、三蔵が言った。寝起きの掠れた声だった。すぐさま頷くと、腰に回されていた手にぐっと力が入るのを感じた。
絡め合わせた足を途端に意識してしまう。素肌が触れ合うのは単純に好きだが、所謂そういう熱を孕むような触れ合いは少し苦手だった。
悟空が反射的に身を固くしていると、三蔵は予想外にもするすると手を離した。体温が移ったシーツは裸の腰に気持ちよかった。温い、サラサラした感触。
すると、驚くほどの速さで三蔵が覆い被さってきた。悟空の両脇に手をついているので、体重はあまりかかっていないのに、捕らわれているような錯覚を起こす。

「するの?」
「…嫌か?」

声はそのまま落ちてきた。悟空は横を向いたままだったので、三蔵の唇は耳の上にあるのが予想できた。三蔵の美しい声。それを吸い込んだ耳は甘い痺れを悟空に齎す。
嫌か、なんて。なんて狡い聞き方をするのだろう。モゴモゴと身を捩りながら仰向けになると、三蔵の顔を真正面から見上げた。
カーテンの隙間から薄く稲光が入ってきて、薄暗い部屋の中で、一瞬紫の目と金糸だけが輝いた。

「きれい、」

思わず口をついて出た。
「…何が」
「三蔵の目。いま一瞬光った」
「雷だろ」
「かみなり、かも。」

闇に浮かぶ、三蔵の顔があまりに美しく透けるように綺麗だったのだ。
彼は光だ。朝日のように爽やかに穏やかなものではなく、もっと鮮烈に強く、腹の底を響かせる光。慈愛も破壊も全てを孕んだちから。

「三蔵は、俺のひかりだ」

その一瞬、雷の音も何もかも消えた。三蔵の部屋だけ切り取られたように、音を無くしてしまった。その小さな暗い世界の中で、三蔵の唇がゆっくりと降りてくるのを、悟空は祈るように甘受した。ちょうど、地面に平伏した人間が、神の光を受け入れるように。或いは裁かれるように。




2015.バレンタイン
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