Rhapsody in Blue | ナノ
悪魔なんて信じていなかった。天国や天使が居ないのと同様、この世には救いもなければそういうまやかし的な事象まで、三蔵は一切信じていなかったのだ。
第一、そんなものがいるならば目の前に連れてこいと思っていた。いい研究材料になるとまで思っていたのだ。
ーーーーー世の中とは不思議なものである。


Rhapsody in Blue


最初に悟空と会ったのは、まだ夏の名残のある暑い日だった。
バッタリと行き倒れていた彼女を柄にもなく介抱したのがきっかけだった。
常ならば三蔵はそういった事を一切しない。人助けも面倒事の一部に感じているのだ。三蔵はとにかく他人と交わるのが嫌いだった。にもかかわらず、三蔵は結果として彼女を助けてしまった。
瞳のせいだ。三蔵は独りごちた。
金色の瞳。あの、陽炎立ち揺る暑い日、彼女と言葉を交わす前に、一目見たその金色に魅せられてしまった。とてつもない衝動が三蔵を襲ったのだ。
こいつが欲しい、と。
結局彼女を抱き上げ、自室まで連れ帰り、頭を冷やし飲み物を与えてその日は就寝した。
その次の日、夢見が悪くげっそりとした三蔵に向き直り、ベットの上に座った彼女は、その真っ黒な羽根を広げてにっこりと笑った。

「助けてくれてありがとー。俺悟空。おにーさんは誰?」
「……ちょっと待て、お前その背中の黒いの何だ」
「これ?これ羽根だよー。俺夢魔だから」
「はぁ!!!???」
「はぁじゃないよ、夢魔。でも失敗多くてさー。昨日も精気貰えずに行き倒れてて…」
「せ、精気!?」
「うん。おにーさん昨日ちょっとイイ夢見なかった?俺、あーゆーの見せて精気貰うの。おにーさんの精気美味しかったよー。ありがとねー」

真っ青になった三蔵へ、悟空はもう一度にっこりと笑った。
それから紆余曲折あり、一応悟空は居候として三蔵の家に居着いている。
ただし、夢魔としての能力を使うことを禁じた。1日1回、別のやり方で精気をくれてやるから、夢に現れるのだけはやめろ、と三蔵が殴り飛ばしたせいだった。



それまで目を通していた皮を張った重い本をパタリと閉じると、三蔵は息苦しさの原因である人物をじっと見つめた。

「おい悟空、やめろ。俺は読書中だ」
「やだー。ここ気持ちいいもん。今日はここでお昼寝するよー」

ここ、とは所謂ソファに横になった三蔵の真上である。足を伸ばして寝転んでも余りあるオットマンの上に寝転び、数日かけて読んでいる本の続きにとりかかったところ、悟空が体の上へ飛び乗ってきた。
剣呑な三蔵の視線もどこ吹く風、悟空は目を閉じて三蔵の胸板へとスリスリと頬を寄せた。部分的に跳ねた茶色の横髪が動きに伴ってサラサラと揺れる。

「どけ。蹴落とすぞ」
「無理ー。もう俺寝そうー」
「ふざけんなよこの寝ぼけ悪魔」
「悪魔じゃないよー、夢魔だよーだ」
「同じようなもんだろうが。」
「違うってばー。三蔵、あんまり言うと精気抜いちゃうよ?いいの?」
「やってみろ。次の日ボコボコにしてやる」
「ひどー」

クスクスと、悟空が笑う。
その豊かな髪をゆっくりと撫でてやると、悟空はさらに嬉しそうに三蔵へと擦り寄った。

「じゃあさ、ボコボコにされるのも嫌だから、三蔵、あれ頂戴?」
「…分かった。」

本をサイトテーブルへと置くと、三蔵は悟空の首筋へと手のひらを回した。そしてゆっくりと、その薄く開かれた桜色の唇へと己の唇を重ねた。

「ん、ん…」

くぐもつた声が悟空の唇から漏れ出る。これが、悟空の望む1日1回のご馳走、三蔵の精気を貰う手段だった。
暫く堪能し、悟空が唇を離すと、真っ赤になった三蔵とかち合った。

「なにー?また照れてるのー?」
「…うるせぇ」

プイッとそっぽを向いてしまう。三蔵は、悟空が最初に精気を抜いた際に『相当な夢』を見せられ、悟空とキスをするたびにそれを思い出すらしく真っ赤になっていた。

「かーわいー」
「黙れしばくぞ淫魔」
「夢・魔!」

今度は悟空がプイッとそっぽを向いた。

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