13 | ナノ
幸福というものは、一人では決して味わえないものだ。



【Harry go round 13】


「おくるみ、ベビーバス、赤ちゃん石鹸と…あ、八戒、あれは?ガーゼタオル。」
「この前買いましたよ、多分その辺りに…あっ、ありますよ。これです」
「肌着にオムツ…おっけー!」
「ベビーベット、ベビーカー、チャイルドシートも丸してください。」
「おっけー!」
「お前らなにやってんだ」

暑さもだいぶ和らいだ9月末の午後。
お腹の大きくなった悟空と八戒は、三蔵と悟空の私室に集まっていた。
突然机の上やベットの上に色々なものを広げたと思えば、次から次にメモをチェックしながら数を数えている。普段はさっぱりと色味が無い部屋が、ベビー用品御用達の所謂パステルカラーに染まっていた。
仕事を途中で切り上げたのであろう三蔵は、自分の部屋の変化に戸惑いながらも気を取り直し、二人を見下ろした。

「おかえりさんぞー!今な、出産準備の買い物の最終チェック中。」
「おかえりなさい。コーヒー淹れましょうか?」

ああ、と答えると、三蔵はズカズカと品物が広げられた机の横の椅子へと腰掛けた。非常に歩きにくい。こんなに散らかして、腹の大きい悟空が万が一転びでもしたらどうしてくれるのか。じろりと八戒を睨みつけ、そして。

「赤ん坊用のものは殆ど買ってあるだろう。」

非難めいた視線で告げると、効果が全くない悟空がにっこりと笑った。

「うん。でもチェックしとかないと買い漏れがあるかもって八戒が言ってくれて。すげーよ、チェック表作ってくれたんだ。」
「ヒマしてんだな」
「悟空の初めてのお産ですからね。僕ができる限りサポートしたいと思いまして。あれ、お邪魔でした?」

三蔵へコーヒーを渡しながら、八戒はにっこりと微笑んだ。三蔵は無言で受け取りすぐに口をつける。
無言は肯定にも否定にも取れる。三蔵の場合は前者で間違いなさそうだ。

「悟空は黒豆茶にしました。妊婦さんにいいらしいですよ」
「ありがとう!」

受け取ったマグは暖かく、悟空は自然と笑顔になった。
三蔵は相変わらずブスッとコーヒーを啜っている。

「さて、一通りチェックしましたがどうやら買い忘れなどは無さそうですね。これでいつ産まれてきても大丈夫ですね。」
「うん。大丈夫だよな。」
「ところで赤ちゃんの性別はもう分かっているんですか?」
「ううん、まだ。センセーが産まれてからのお楽しみにしましょうって。」
「そうですか。悟空はどちらだと思います?」
「俺?うーん、わかんねぇ。別にどっちでもいいと思うし…あ、でも、どっちでも三蔵に似て欲しいな。金色の髪、キレーだし。」
「………」

ちらりと三蔵を伺うと、先ほどよりもわずかに機嫌が良くなったらしい。眉間のシワが少し消えている。

「三蔵は?」
「別に男だろうが女だろうかどっちでもいい。容姿もどっちに似てもいい」
「えー、俺は三蔵似がいいなー」
「お前の一存で決まるわけじゃねぇんだ、グダグダ言うな」
「そりゃ…そーだけどさ。」
「まあまあ、産まれたら分かりますし、あ。そういえばアレ、するんですか?立ち会い出産」
「するわけねぇだろ!」
「俺もしたくない!そんなん絶対しねぇ!」
「あはは。なんなら僕が立ち会ってもいいんですけどね…さ、悟空。もう少しなので片付けちゃいましょう。」
「聞き捨てならんな。父親でもないテメェが立ち会えるわけねぇだろうが」
「何を仰るんですか。僕は悟空の親みたいなものなんですよ?親としてなら立ち会えるでしょう?」
「父親権限で締め出してやる」
「もー、二人とも喧嘩すんなよなー」

声のした方にちらりと目をやると、悟空は大きなお腹をさすりながらひょこひょこと品物の間を通り抜けようとしていた。これは危ない。非常に危ない。

「おい、悟空。テメェベットに座ってろ。デカイ腹してヨタヨタ歩くんじゃねぇ」

と。ついついいつもの口調で叱りつけるが、悟空はどこ吹く風。

「大丈夫だって。」
「あ、悟空。三蔵の言うとおりほんと無理しちゃダメですよ。身体が第一なんですからね!」

八戒に加勢されると悟空の分は非常に悪くなる。結局三蔵に言いくるめられ、八戒に慰められながら、悟空はベットの上で二人が言い合いながらベビー用品を片付ける様を見届けた。



続く。

次回ついに出産です。悟空がんばれ!
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