薄紅 | ナノ
悟空は走った。三蔵も走った。
振り返ることもなく、ひたすら前へと。
努めて明るく振る舞っていた悟空も、努めて冷静に振る舞っていた三蔵も今は居ない。
もつれそうになる足を必死に動かして、二人は走った。心臓は早鐘を打つように躍動し、空虚な身体の中をひたすら振動が貫く。喉はカラカラで、口はカサカサ。血液の迸りがドクドクと頭に響く。

十字路を右、曲がり角をそのまま、また十字路を左、その次の十字路はまっすぐ、そのあとは直線を直進。
そこで漸く川に出て、二人は立ち止まった。
どれぐらい走ったのだろうか。とにかく走ることに必死で距離や時間などぼんやりとしか分からない。
二人とも汗だく。おまけにシャツはびっちりと背中に張り付いて気持ち悪いことこの上ない。
悟空はたまらずアスファルトに大の字で寝転んだ。ウルサい心臓に手を当てて、呼吸を整える。
対する三蔵は膝に手をつき、大きく肩を上下させていた。
その形のいい顎からは汗がいくつもアスファルトへと落ち、水玉模様を作っている。
暫しの間お互いに息をつき、ガサガサの声で悟空から声を掛けた。

「ハァ…まいたかなァ…」
「ああ…ハァ、でも追いつかれるのは時間の問題かもな…」
「マジ、人数多すぎッ…ハァ…ハァ」

さすがに狼狽したように悟空は手を目の上にやる。
それを見て三蔵は空を仰いだ。
ーーーそして、三蔵の目が見開かれる。

「…悟空」
「なに、三蔵」

三蔵の言葉に頭を上げる。空を見上げている三蔵につられるように悟空も空を見上げた。

「…さくら。」

そこには満開の花を誇示する桜が、その枝を伸ばしていた。
一体何故気付かなかったのか、という位見事だった。

「――――。」

ザッザッと、遠くから足音が聞こえる。
聞くからに100人はゆうに超えるであろう人数分の足音だ。
ここが見つかるのも時間の問題。
三蔵は悟空を見た。悟空も三蔵を見ている。
背後には絶望、前面には川、そして頭上には希望の桜。
何を取るかは自分次第。
二人は一瞬笑い合って手を取った。
そして軽やかにアスファルトを踏み出す。

目指すは理想郷、見ていろ神様。

助走をつけて二人は飛び出した。
足元に地面はもうなかった。



薄紅よ咲き誇れ散り急げ



end



2014年加筆修正。
リベンジ…になってねぇ!




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