12 | ナノ
真の知識は経験あるのみ。



【Harry go round 12】



「悟空、足りてますか?悪阻も治まったことですし、いーっぱい食べて下さいね」
「わぁ、ありがとう!いただきまーす!」

こんもりと盛られた大量のパンケーキに、嬉しそうにフォークとナイフを握り締める悟空。
そしてこちらも嬉しそうに微笑む八戒。その手には早くもおかわり用のパンケーキの皿が握られている。流石は八戒。余念が無い。

「なんかデジャヴ…」

悟浄はコーヒー片手に長いため息をついた。ほんの数ヶ月前、まさに同じような瞬間の時、悟空の悪阻が起こり騒動が巻き起こったのだ。
しっかり巻き込まれた悟浄は思念した。
悟空を病院に連れて行った後の八戒は大変だった。普段より笑顔が3割増しなのに、目が全く笑っていない…即ちブチ切れ笑顔で悟浄の家の敷居を跨いだのだ。
悟浄が恐る恐る塩梅を聞くと、八戒は更にニコニコと1から10まで引き腰の悟浄に懇々と説明した。
間違いなく妊娠しており、間違いなく生臭坊主が孕ませたそうだ。そして更に驚愕すべきは三蔵は産ませる方向らしいということ。

「三蔵、出産予定日の確認をしたんですよ…産ませる気ですよね…」

そう呟いて八戒は寝室へと直行した。腹を立てているのだとばかり思っていたし、実際そうだったのだろうが、彼も少なからずショックを受けているようだった。
当然だ、と悟浄は思った。はたから見ていても八戒が悟空を大切に思っていたのは感じ取っていたし、尚且つ悟空も八戒には懐いていた。
いうなれば兄弟。いや、親子。そんな風に大事にしていた子供を孕ませられて、八戒でなくても一言言いたくなるだろう。
ただ、悟空が誰よりも三蔵を慕っていることも二人は知っていた。
悟空は三蔵に拾われて世界を手に入れたようなものだったし、三蔵は三蔵で悟空に絆されているようでもあった。決して一方的ではない、あの二人は正に想い合っているのだ。
その後、悪阻の最中に何度か見舞いに行った時に、顔色の悪い悟空が改まった風で八戒と悟浄に告げたのだ。
「産む」と。
数秒固まって、八戒は完璧な笑顔で「応援します」と言った。悟浄は「猿が母親ねぇ…まぁがんばれよ」と笑った。
帰路につく間、悟浄は八戒へ問いかけた。

「意外だった。反対するかと思ったぜ。」
「意外ですか?…確かに、反対する気持ちが少しもないとは言い切れませんが、僕にそんなことを言うことはできません。悟空達の問題で、悟空達が考えて出した答えなら、僕はそれを応援しますよ。悟浄だってそうなんじゃないんですか?」

緑色の目が伏せられた。斜陽に照らされたそれを見ながら悟浄は言った。

「俺?俺はどーでもいいわ。」
「……そうですか。悟浄みたいに思えたらまた違うんでしょうけど…なんか今日は変にショック受けちゃって、何にもする気になれないです。」
「丁度良いからメシ食って帰ろうぜ。そんな時は何もするな」
「…はい。」

何とも揺れ幅のある一日だった。
そして現在に至る。
無事に悪阻が終わったらしい悟空は、三蔵の居ない日を狙った八戒にまんまと言いくるめられてここへ連れて来られた。八戒が言うには妊婦にストレスは大敵らしい。
そのストレスを少しでも解消させるため、そして悪阻で減った体重を元に戻すために、悟空は八戒からパンケーキ責めを受けていた。

「うんまい!八戒おかわりちょーだい!」
「どうぞ。」
「ありがとう!」

悟空も悟空だ。悟浄は更にため息をつく。つい1ヶ月前まではこの世の終わりのような顔をして食べ物を拒否していたわりに、今はそんなことがまるで嘘だったようにパンケーキを口内へと詰め込んでいる。
八戒は丁度パンケーキのお代わりを作りにキッチンへと向かった。悟空をからかうなら今がチャンスとばかりに悟浄は口を開いた。

「あんまり食い過ぎて太ると、三蔵に文句言われるぞ。」
「うっせー!」
「母親になるっつーのになんて酷い口の聞き方してんだよ。」
「悟浄にだけは言われたくない」
「……で?それはいいとして、あの生臭坊主は父親になる覚悟、できてんの?」
「知らねぇ。なんか、たまごクラブは毎日隅から隅まで読んでるよ。最近妊婦マッサージを覚えて朝晩やってくれるけど。」
「…マジか。意外といい旦那してんじゃん、三蔵。」
「つーかめんどくさいよ実際。腹圧がかかるからしゃがむなとか、カフェインが摂りすぎるとどーのとか、胎教がどうたらとか…マジ疲れる」
「へぇー…」

ため息をつく悟空を傍目に、これはからかうネタができた、と悟浄は含み笑いをした。
それからきっちり2日後、不機嫌を顔に貼り付けたような三蔵へ、くだんの件を口にしたところ、弾丸が耳を掠る事態となった。



続く。




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