ハリー8 | ナノ
新たなる騒動の幕開け。


【Harry go round 8】



「お待たせしました、召し上がれ。」
「やったー!八戒ありがと!」

悟空の顔程もある真白い皿に、これまた悟空の顔程もあるパンケーキが山のように積まれてやってきた。
その数実に10枚以上。そこまで数えて、悟浄は気分が悪くなった。
パンケーキからはホカホカと湯気が立っていて、その上にはトロリと溶け始めた光沢のあるバターとメープルシロップがこぼれんばかりにかかっていた。
量を別にすれば美味しそうではある。目の前の雌猿と、その飼い主ならば飛びつきそうな甘味ーーー。

悟浄は寝起きの頭をガリガリと掻いた。夕べは賭博場で稼ぎ(何しろ同居人がとても嬉しそうに、女に変化した悟空に服やらなんやら買い与えるもので金が尽きてきた)、家の敷居を跨いだのは午前様。出掛ける前に遅くなる旨は伝えておいたし、収穫は上々だし、八戒が腹を立てる要素はどこにもなかった…筈だった。
が、今朝早くに悟空が訪問してくるや否や、八戒は布団の中で睡眠を貪る悟浄へと悟空をけしかけたのだ。
結果として、悟浄は不貞腐れながら温かいベッドへと別れを告げて、居間の椅子の上に落ち着いている。
真ん前には山盛りのパンケーキ、その奥にはそれを頬張りニコニコ笑う悟空ーーーの筈だった。が。

「どうしました?遠慮せずにどうぞ?」

悟空はフォークを持ったまま微動だにしない。悟浄の前へコーヒーの入ったカップを置きながら、八戒は不思議そうに悟空を見つめた。
心なしか悟空の顔が青い気がする。

「うん…サンキュ、八戒…」
「パンケーキ、好きでしたよね?冷めないうちにどうぞ?」
「う、うん。いただきます!」

漸くフォークを持ち上げて、パンケーキを一口齧った。その瞬間。

「…ぅ!!!」

悟空はそのまま口元を抑えてバタバタとトイレへ駆け込んだ。
残された悟浄と八戒はお互い顔を見合わせる。二人の思考は一致していた。…嫌な予感がする。恐る恐る悟浄が口を開いた。

「…なんかこーいうの、テレビで見たことあるわー。その時は炊きたてご飯だったけど。」
「余計なこと言わないで下さいよ悟浄!悟空、大丈夫ですか?」

八戒は悟浄を一喝すると、悟空を追いかけてトイレの前へと進んだ。
躊躇いがちにノックしても、中からは反応がない。

「…悟空?」
「ごめん八戒、今出るよ…」

ガチャリとノブが回され、ドアが開かれる。ドアの奥から、真っ青な顔の悟空が出てきた。

「大丈夫ですか?」
「うん、ごめん。せっかく作ってもらったのに…美味しくなかったとか、そんなんじゃないんだ。ただ、なんか気持ち悪くなっちゃって…」
「気持ち悪く…ですか。」
「うん。なんか湯気?が…なんか、うまく言えないんだけど…」

俯く悟空の頭をゆっくり撫でて、八戒は優しく笑う。

「体調が悪いんでしょうか。風邪かもしれませんね、吐き気からくる風邪もありますし。病院行きます?」
「ううん、いい。多分大丈夫。ごめんな、八戒」
「いえ。」

にっこり笑った八戒は、大丈夫だという悟空を宥めすかして大事をとるように、とベッドへと押し込んだ。
そして、近年稀に見る怒りを湛えた笑顔で悟浄を脅し、薬局で妊娠検査薬を購入するように、と言付けた。

そして八戒と悟浄の悪い予感は最悪の形で的中していた。





続きます。

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