ダ56 | ナノ 人生は冒険だ
【Harry go round 5】
店員にサイズを計ると言われ、成す術もなく悟空は試着室へと押し込められた。
白を基調としたいかにも女の子専用ですと言わんばかりの可愛らしい小部屋に悟空は既にたじたじ状態。
「ひゃひゃ！くすぐった！」
「失礼します…トップが８７…Ｃの７０ですね。先程のﾌﾞﾗｼﾞｬｰお試しになりますか？」
「え？あ…はぁ」
先程のマネキンの下着を渡され、悟空はかなり戸惑った。
恐る恐るﾌﾞﾗｼﾞｬｰを見詰め…一体どうやってつければいいんだろう。…てゆうか何でつけなきゃいけないんだろう。
そうだ。三蔵だ。三蔵がつけろっていったから。
「どうかなさいましたか？」
柔らかい店員の声色に、ついに悟空は覚悟を決めた。
「つ…つけ方が分からなくて…」
「…はい、ではお教えしましょう」
微笑む店員に、ほっと胸を撫でおろし、その後付け方を教わった悟空は、他の店員に促される侭次々と下着を試着していった。
イエローにピンク、薄いブルーに黒。
段々と慣れた悟空は、次第に店員と楽しく会話をしながら下着を試した。
「有難うございました」
数十分後、悟空の両手には大量の紙袋が下げられていた。
漸く出てきた悟空の大量の紙袋に三蔵は暫し絶句し、それでも「全部つけて見せろよ」と微かに笑って悟空の頭を撫でた。
真っ赤になった悟空もゆっくり頷き二人は帰路へとついた。
寺院に戻ると悟空はベッドの上へ真っ先に飛び乗り、ガサガサ包みを解いた。
その楽しそうな表情に当てられたのか、三蔵もいつになく機嫌がいい。
「それにしても随分買ったな」
「へへ、なんか段々欲しくなっちゃって…あ、これ！お気に入りなんだ！」
「…どれだ？」
嬉しそうな悟空はそそくさと上着を脱ぎ、先程買ったばかりの下着をもたもたと慣れない手つきで纏った。
それは上質なレースで出来ており、胸元にはリボンがあしらわれている薄い紫色の下着。
「へへ…三蔵の、色と同じ」
照れくさそうに笑う悟空を静かに抱き寄せ、三蔵はその柔らかな胸元へ口唇を寄せた。
優しい手つきに悟空は眼を丸くする。
「さ、三蔵？」
「知っているか？」
「な、何？」
「紫には性欲を促進する働きがあんだよ」
「ぇえ！？」
「…責任取れ」
「ぅわ！？…ぁっ…ん、 やぁ――！」
その後買ったばかりの下着を汚され怒った悟空は暫く三蔵と口をきかなくなったとか。
穏やかな昼下がり、いつもの悪友宅にて。
【Harry go round 6】
「でな、その朝起きたら」
「そんなオイシイ姿になっていたと」
「イヤハヤ、不思議ですねぇ」
「な、悟空、一晩泊まんねぇか？」
「悟浄、眼がやらし…」
ガウン！
「うぉ！？」
「…離れろ、クソ河童」
悟空を抱き寄せ、三蔵は静かに懐に銃をしまった。
間一髪で避けた赤い青年は、追撃を避ける為に寝転がったままだ。
立ち込める薬莢の匂いに悟空は顔をしかめ、八戒はゆっくりと口を開いた。
「塵増やさないで下さい三蔵。それより寺は女人禁制では？」
「寺院の最高責任者は俺だ。」
「成る程。しかし本当に可愛くなりましたね、悟空」
「見るな」
「「…三蔵…」」
さらに腕の力を強める三蔵に、悟空と八戒は同じタイミングで苦笑した。
悟空が女になって数日、外に出たいと騒ぐ悟空を宥めきれなくなった三蔵は、少々戸惑い気味に悟浄宅を訪れた。
悟空の豹変振りに悟浄は好奇の眼で、八戒は苦笑からくる微笑で出迎えた。
「悟空、下着はきちんと手洗いしていますか？」
「おう！店員さんに教えてもらった！」
「それはよかった…まさか、三蔵と下着屋へ？」
「ん、連れてってくれた！」
「そうですか…」
「……三蔵さまったら、一緒に下着屋行くなんてやーらしー」
漸く起き上がった悟浄は、命知らずも大概に三蔵をからかい始める。
眉根を寄せ、懐へ手を忍ばせる三蔵を見、悟浄はゆっくりと後ずさった。
「そんなに死にてぇか河童」
「…滅相もｺﾞｻﾞｲﾏｾﾝ」
そっとハイライトを咥えて、火を探すように悟浄の手が動く。
「でも悟空が女の子になったんじゃ、三蔵さまもちゃんと避妊しねぇとな。」
「そう、そうですよ三蔵。きちんと責任が取れる身分ならまだしも、子持ちの僧侶なんて聞いたことないですからね」
「避妊の仕方、教えてやろーか？三・蔵・さ・ま？」
「…殺すぞ」
キョロキョロと３人を見つめていた悟空だったが、すぐに口を開いた。
「避妊ならしてるぞ！」
「え？」
「あ？」
「バカ、黙れ」
へへん、と偉そうに鼻を鳴らし、大きな金晴眼ををキラキラさせながら悟空は声高に告げた。
「三蔵、きちんと外で出してくれるんだ！」
「「………は？」」
午後の日溜まりが凍りついた。
to be next…