天宮06 | ナノ






ラストラブレター





※拍手再録


天宮静がそれを受けとったのはかなでとの結婚式が翌日に迫った忙しい最中のことだった。ここ数日は式の準備に追われて見ていなかった郵便受けを確認しにいった時のことだ。
新聞やダイレクトメールでぱんぱんになった郵便受けの奥底に、それは入っていた。
随分古びた印象の封筒。
訝しく思い手にとって宛名をみるが、見覚えのない時で「静へ」とかかれているだけで、宛先はおろか差出人の名前すらない。
宛先がないということは直接郵便受けに投函された、ということで静はそれを不審げにつまみ上げた。

―――僕を静と呼ぶ人間は少ないのだけど

手紙とはいえ名指しされた不快感に眉を寄せる。どうしたものかと手紙の端をつまんだまま考えていると、静のことを「静さん」と呼ぶ数少ない人物が現れた。
「静さん、どうしたんですか?」
明日には新妻となる予定の小日向かなでだ。どうやら郵便受けを見に行ってから戻ってこない静を心配したらしい。
「ん?いや…変な手紙が入っていたから」
「変な?」
かなでは静がつまみ上げている封筒をみて小首を傾げた。
「ファンレターですか?」
最近静さん人気だから、というかなでに静はまさかと首を振った。
「自宅は公開していないよ」
「最近の情報を侮っちゃダメですよ」
インターネットで一杯情報が流れているんですから、というかなでに静はううんと呻いた。

これでこの封筒の不審感はより高まったな

できることならこのまま捨ててしまいたいなと内心思っていると、それをさっしたかなでがダメですよと釘をさした。
「見ないで捨てるなんて、駄目です」
「でも怪しいよ?」
「大事な手紙かもしれないじゃないですか」
もしくは間違って郵便受けにいれたのかもと仮説をたてるかなでにそれはないよと静は否定した。
「静なんてありきたりな名前っていうわけでもないよ」
「しずかっていう人宛かもしれませんよ」
かなでが尚も食い下がるので、静は仕方ないと息を吐いた。
とりあえずこんなところで言い合っても何の解決にもならない。
部屋に戻って開けてみようという静にかなでは満足げに頷いた。



「準備はいい?あけるよ?」
ソファーに座った静は、隣で座るかなでにそういってからペーパーナイフを封筒の口に宛てた。
何故か静以上に緊張しているかなでは、真剣なまなざしでペーパーナイフによって開かれていく封筒を見つめている。
封筒は数秒後に呆気なく開いて、中からは1番恐れていたもの…剃刀やら怪しげな粉…はでてこなかった。
古びた封筒に入っていたのは古びた一枚の手紙。
恐る恐る開いてみて、静は書かれている内容に言葉を無くした。
動きの止まった静を不思議そうに見上げたかなでは小さな声で私も読んでいいかと尋ねる。
静がどうにか頷くと、かなでは遠慮がちに手紙を覗きこんだ。


静へ


私達の可愛い静へ。今日は貴方が生まれた日。そんな素敵な日に、未来の貴方へ手紙を書きます。
これを読むころ、貴方は何歳になっているのかな?
この手紙は静が結婚する、という大事な節目の年にあてて書きました。
静、貴方がどのように成長するか今の私達には全く想像できませんが、赤ちゃんの貴方はお母さんに似ているのできっと美人に育っていることと思います。
それともお父さんのように優しい人に育っているのかな?今から未来の貴方にあうのが楽しみでなりません。
結婚はいいこと半分、辛いこと半分です。でもどんな時でも貴方には素敵なお嫁さんがいるのだから決して負けないで下さい。
幸せな家庭を築いて下さい。
そして、誰にも負けないと自負できるくらい貴方自信が幸せになって下さい。
最後になりましたが、静のパートナーになって下さる素敵な女性に一つだけお願い。親バカと笑って下さっても結構です。でも、大事な大事なお願い。
どうか、私達の大切な静を支えてやって下さい。
二人のこれからが幸せでありますように。
愛をこめて


両親より


かなではゆっくりと手紙から静に視線を移した。静は大きく目を開けたまま、ぴくりとも動かない。手紙を持つ手が微かに震えているのを見つけて、かなではその手に自分の手を重ねた。
「素敵な、両親ですね」
「……」
「私、あってみたかった」
今は亡き静の両親。きっと素敵な人だったに違いない。優しく囁くと、静が震える声でうんと頷いた。
「素敵な両親だった…もう顔も思い出せないと思っていたのに」
手紙を読んだ瞬間浮かんだのは優しい両親の笑顔だった。静が大きく目をしばたたかせると、大粒の涙が一つ、床に落ちて弾けた。手紙を濡らさないように、静の手から手紙を抜き取ったかなではそっとそれをテーブルの上に置く。そうしてから床に膝をついて、静の足の間に向かい合うようにして座った。
「幸せに、なりましょうね」
どんなときでも私が支えます、だから誰にも負けないくらい幸せになりましょうね
囁く声に静はただ大きく頷いた。





「それにしても不思議なものだな」
後日その話をきいたニアは不思議そうに首を傾げた。宛先のない、何年も前の手紙が突然家に届くなんてきいたことがない。
「天宮の姉がやったのか?」
「ううん、違うって」
お姉さんも驚いていたというかなでにニアは尚も首を捻った。ミステリーだというニアに、かなでは微笑んで額に入れられて壁に飾られた手紙をみる。
「きっと妖精が持ってきてくれたんだよ」
「…ウ゛ァイオリンロマンスの次は妖精か」
つくづく音楽の神様に愛されているのだな、お前達は。どこかうんざりしたような口調で言い放たれたニアの台詞にかなではにこやかに微笑んだ。



さあ、幸せになろうか

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