律03 | ナノ




ナイトメア






怖い夢を見た。大好きな律くんがどこかにいく夢。背中を向けて何も言わずにどんどん離れていく律くん。その背中が中学校の卒業と同時に何の相談もなしにこのままでは駄目だといって横浜に行った律くんの背中とだぶる。一生懸命追ったけれど、どんどんどんどん引き離されて真っ暗な世界に独りぼっちにされる・・・そんな夢。夢の中で一杯泣いて、でも誰も来てくれない・・・夢の中のかなでは一人ぼっちだった。

「・・・っ」
ばさりとタオルケットを跳ね除けてかなではベッドから起き上がった。どくんどくんと心臓が嫌な音を立てている。額には脂汗が滲んでいて、かなでは手の甲でそれをぬぐった。
「夢・・・」
夢だったのかとほっとして時計に視線を移せば、深夜の2時を少し回ったところだ。なんとなく寝なおす気にもなれなくてタオルケットを肩にかけたまま部屋を出た。菩提樹寮からイレギュラーな面々がいなくなって数日。深夜ということも相まって寮内は沈んだように静かだ。
ずるずるとタオルケットを引きずりながら真っ暗な廊下を歩いてラウンジまで行くと、キッチンに明かりが付いているのが見えた。その光に誘われるようにかなでの足がキッチンに向かう。キッチンのコンロの前には先客がいて、その後姿にかなではどっと体から力が抜けるのを感じた。
「律くん」
「?小日向」
どうしたこんな時間にと問われてかなでは心底ほっとした。

やっぱりあれは夢だったんだ、律くんはここにいる

悪夢から漸く開放されて、足から力が抜ける。その場にへなへなとへたり込んでしまったかなでに律は軽く目を見開いてコンロの火を止めた。
「どうした、調子が悪いのか?」
傍によってきてかなでを気遣う律にかなではふるふると首を振ってその服の端を掴んだ。
「怖い夢をみたの」
「夢?」
「律くんがいなくなっちゃう夢」
かなでの言葉に律はそうかと小さく呟いた。そのままかなでを促してラウンジまで戻ると、少し待っていろといってキッチンから暖かい麦茶を持ってきた。
「これで少しは落ち着くだろう」
「ありがとう」
素直に受け取って口をつける。ラウンジの消灯時間は随分前に過ぎているので明かりは非常灯だけだが、それでも律がいるだけでかなでは安心した。
学校生活はどうだとか、律がいない間実家ではこんなことがあったとか他愛もない話をしながら麦茶を飲み終えると、もう大丈夫だろう寝ろと律が口を開いた。かなでは暫く沈黙していたが、ふるふると首を振る。
「また怖い夢を見たらどうしよう」
「かなで」
「律くん起きたらいなくなってたら・・・」
「俺はいなくなったりしないよ」
でも前科があるからとかなでが言うと律は苦笑してそうだなとかなでの頭を撫でた。よしよしと優しく撫でて、それから思案するようにしばし沈黙する。いつまでも起きているのはかなでの体調面を考えてもあまりよくないことだ。

どうしたらかなでの不安は取れるのだろう

考えて、律はそうかと呟いた。
「律くん?」
「かなで、俺がいれば眠れるか?」
「律くんが?」
確かに律がこうやって頭を撫でていてくれれば眠れる気がする。
こくこくとかなでが頷くと律はかなでをつれてラウンジ中央のソファに向かった。自分はその端に座ってかなでを横たわらせると、かなでが持ってきていたタオルケットを肩にかけてやる。
「今日はこのままここにいるから」
ゆっくりお休みと再度頭を撫でてやるとかなでがまるでネコみたいに目を細めて頷いた。
「うん、ありがとう」
律くんは優しいねといいながらかなでがその場で丸くなる。かなでが寝やすいように、かなでの頭を膝の上に乗せてやり律は微笑した。
「優しい・・・か」
優しいはずはないと思う。自分の行く先を考えるあまり、一度は幼馴染も家も全部捨ててきた人間だ。その結果この幼馴染の心の奥に小さな傷ができて、そんな夢を見せたのだろうと律は思う。すまないと心の中で謝罪し、しかしその反面心の底から喜びが湧き上がるのを隠せずに律は口角を上げた。
かなでの中には確実に自分自身がいる。他の誰でもなく、かなでは律を求めている。
真っ黒な感情をどうにか押し隠し、律はそっとかなでの頭を撫でた。





あとがき
アンケート用に作成したものの、内容が暗い為別のにしました。律…真っ黒なイメージはないんだけどな(汗)

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