ハル01 | ナノ






恋に捧げる鎮魂歌




森の広場の片隅で少女が蹲って泣いているのを見かけたのは偶然を装った必然だった。
何故なら水嶋悠人はここ最近ずっと彼女の姿を半ば無意識に探しているからだ。その事実に気がついたのは極最近で、それが恋というものだと気付いたのはもっと最近のことだ。

もっとも気付いた時点で終わっていたのだけど

彼女、小日向かなでには恋人がいる。彼女の幼なじみであり、ハルが敬愛してやまないオーケストラ部の部長の弟、如月響也だ。そしておそらくは彼女が今泣いている原因でもあったりする。
如月響也はとにかく口が悪い。少なくともその口の悪さで幾分か損をしている人間だ。性格はわりとまじめで一途なようだが言い方のせいでいらないところに敵を作ってしまう。かなでに対しては幼馴染ということで特に遠慮というものがないようでときには傍にいるものがぎょっとするような暴言を吐くことさえあった。

また何か言われたんだな

声もなくただぽろぽろと涙を流すかなでにハルは慰めようかどうか迷った。

慰めてあげたい・・・でも、自分は彼女の「単なる」後輩だ

こういうとき新なら何の迷いもなく彼女を慰めるんだろうなと仙台の陽気ないとこのことを考えた。あるいは同じオーケストラ部の榊ならばもっと自然な形でかなでを慰めてやることができるのかもしれない。いずれにしろそれは以前ハルが彼らに対して侮蔑していた性癖で、しかし今は自分自身がその手段を持たないことに情けなさを感じた。

どうしよう、どうしたら?

迷えば迷うほどその場から動けなくなる。と、不意に誰かが近づいてくる音がした。咄嗟に茂みに身を隠すと、響也が何の迷いもない足取りでかなでに向かって歩いていく。
「かなで」
名前を呼べば弾かれたようにかなでが顔を上げた。
どうしたんだよ、また音楽科のやつらになんか言われたのか?うん、田舎者の音楽だって・・・。ばっか、それならこういってやればいいんだよ。お前らの敬愛する律も俺たちと同じ田舎出身だってな
ほら泣くなと響也がかなでの涙を拭く。そのやり取りを遠くで見ていたハルはくっと唇をかみ締めた。

なんだ、あの人が原因じゃなかったのか

原因であればよかったのにとふとそんなことが脳裏を過ぎる。

あの人が原因であればよかったのに
そうすれば・・・そうすれば?

自分の思考回路にハルは嫌悪を感じた。何を考えているんだと頭を振ってチェロを片手にその場を離れる。二人には見えないところまで行くと、ハルは何かをぶつけるようにチェロを奏ではじめた。
広がる音楽は今まで彼が得意としていた清廉な曲調ではなく・・・

「ハル君?」

聞こえてきたチェロの音にかなでは顔を上げた。響也もまた不思議そうな顔をしてその音に聞き入る。
清清しさを感じさせる、清流のような曲ではなく、どこまでも気持ちを押し込めしかしそれを隠し切れないような愁情の曲。そんなチェロの音が森の広場をいつまでも包み込んでいた。



あとがき
10000HIT御礼フリリク小説。響也×かなで←ハルでハル嫉妬・・・え?ハル嫉妬??みたいな内容になってしまいました。てかむしろ暗い。おかしいな・・・嫉妬っていうともっと真っ黒かポジティブだと思ったんですが・・・あれ?みたいなことになっています。も、申し訳な(涙)匿名様にささげます。リクエストに答えきれない駄目管理人でごめんなさい(汗)リクエストありがとうございました。

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