天宮02 | ナノ







花束を捨てましょう



※拍手御礼文の再録です



「どうして静さんはいつも花束を持って帰ってこないんですか?」
ある日、帰宅した静を玄関で出迎えたかなではそういって首をかしげた。
今日も、その前の週のコンサートも大盛況だったと聞く。残念ながらかなでは別の仕事で行くことが出来なかったが、そのずっと前のコンサートでは大きな花束を受け取っている静を何度も見かけているから、花束がもらえないとかそういった心配は杞憂だ。

それに静さんは女の子に人気があるから

新鋭のピアニストとして世間を賑わす静はその見た目も相まって「王子様」として大々的に報道されている。彼の行うコンサートでは今までクラシックでは見られなかったような若いファンが入り、チケットの取れないほどの盛況ぶりだとこの間テレビで見た。
その女の子たちの中にも花束を持った人がいたから、直接ではないにしろおそらく花束が届けられているはずだ。
なのに静の手にはそれがない。ということは会場のスタッフにあげてしまったのだろうか。
毎回持って帰ってこられると家中が花だらけになって困るが、今はまったく花のない状態だからもって帰ってきてくれてもさして困らない。

それどころか家が華やいでいいと思うのに―――

「花、欲しかった?」
玄関先で静の空の手を見つめていたかなではその言葉ではっと我に返った。目の前では静が両手を広げた状態でかなでを見つめている。なかなか玄関の土間から上がってこない静にかなでは首をかしげ、それからあっと声を上げた。
「ご、ごめんなさい」
そういってぎゅっと静に抱きつくと、やんわりと抱き返される。静が帰ってきたときはこうやって出迎えるのが習慣だ。
静曰く、こうやっていると帰ってきたなとほっとして安心するらしい。ひとしきりぎゅーっと抱きついてから離れると、漸く靴を脱いだ静が玄関に上がった。
「ねぇ、花欲しい?」
リビングへ向かう短い廊下を歩きながら改めて問われかなではうーんと唸る。
欲しい…というよりは持って帰らない理由が気になって
もしかして花粉のアレルギーですかと問うと静が苦笑した。そうだったらきっと今頃ばれてるよ。それもそうか、じゃあなんで?リビングへと続く扉を開きながら静が肩越しに振り返る。
「だってほら」
「?」
「花束なんか持ってたら帰ってすぐに君を抱きしめられないから」
そういってちゅっと頬にキスをされる。わっと声を上げてかなでが真っ赤になった。静はそのままリビングに足を踏み入れると部屋の中央に置かれた小さなベッドを覗き込む。中には小さな小さな布の塊があって、それがもごもごと動いておもちゃの様に小さな手を上下させた。
それに僕らの宝物もすぐに抱きしめられなくなるからね
抱っこを催促するように動く手に静は笑いながら小さな存在を抱き上げる。かなではキスされた頬を片手で押さえながらもぅっと息を吐いて笑った。
「そういう理由ならしかたないですね」
「じゃあ、花はいらない?」
腕の中でそれをあやしながら言う静にかなではうーんと考えて、それからぽんと手を打った。
「じゃあ、一輪だけ持って帰ってきてください」
「一輪だけ?」
「そう、それなら抱き合う邪魔にはならないから」
かなでの言葉に静は苦笑して頷いた。



あとがき
天かなほんわかラブのつもり。花束ってコンサートで毎回もらえるのかな・・・そのあたりよくわかりません(汗)。天宮、好きだけど難しいね。独特の雰囲気が出せない・・・


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