アホ子と世捨て人





気がつけば、いつのまにかそこにいた。
にこにこ、いつでも笑って、その笑顔に自分がどれだけ癒されていたのか、きっと彼女は知るよしもないだろう。


「アホ子やもんなぁ」
唐突に不名誉な呼称で呼ばれ、かなでは持っていたテレビのリモコンをうっかり落としそうになった。
リモコンの下には高そうなクリスタルグラスがあって、万が一それが割れたりすれば、かなでごときでは一生かかっても弁償できない気がする。
「蓬生さん、ひどい」
二重の意味をこめて同じソファーに座る蓬生を非難する。蓬生はくすくすと笑ってかなでの頭をなでた。
「だって、ほんまのことやん?」
「アホ子じゃないです。今度へんなこと言ったらグラス、割っちゃうから」
弁償なんてしませんからね、といってかなではつんとそっぽをむいてみせた。
蓬生はかなでの言葉にしばし目を丸くし、それから再び微笑を浮かべた。
「それはかなわんな、壊れたら是非弁償してもらわんと」
「え、それだと返すのに大分時間が…」
真剣に自分のバイト代を計算してみるが、足りない。かなではうぅっと小さく唸って蓬生をみた。
「出世払いじゃ駄目?」
「ええよ」
かなでの申し出に蓬生は微笑んで頷くと、そっとかなでの体を抱き寄せた。
「ほ、蓬生さん?」
「そのかわり」
ごく自然な動作でかなでの膝に頭を載せながら、蓬生がささやく。
「担保。返すまでこのままや」
「ええっでもこれだと動けない…?あれ?でも考えたらそもそもグラスは割ってないから弁償すらないんじゃ…」
あわあわと慌てるかなでに蓬生は穏やかに笑ってめをとじた。
「やったら先払いやね」
どうせそのうち割るだろうと揶揄されてかなでは少しむっとしたが、それもまた事実かと息を吐く。
それよりも膝にかかる重さがあまりにも心地好くて、かなでは蓬生の銀糸髪を優しく撫でた。
蓬生はかなでの好きなようにさせながら、気づかれないように小さく微笑む。

愛すべきアホな少女
いつかグラスを本当に割ったとき、弁償のかわりに結婚を要求しよう
その時彼女はどんな顔をするだろう?
プロポーズと弁償は違うと怒るのだろうか
それとも何も思わないまま微笑んで頷くのだろうか
どちらにせよ、楽しみだとほくそ笑んで蓬生はゆっくりと目を閉じた。




2010/03/07
後書き
初コルダ3小説。甘甘?とりあえず意味はない感じ。というか題名がすでに…次回でリベンジ!




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