天宮16 | ナノ






Speaks fondly






大事な話がある。天宮静にそういわれてジルベスターコンサートに携わった面々が菩提樹寮に呼び出されたのは、卒業も迫る3月のことだった。
春の気配はまだ遠く、時折降るなごり雪が窓の外にちらついている。
菩提樹寮の空調はお世辞にも良いとは言えず、底冷えする寒さに耐えかねて如月響也が声を上げた。
「で、なんなんだよ。一体」
その言葉に水島新がうんうんと頷く。比較的軽装なことが多い彼も、今日は防寒着を着込んでいる。
「寒いから、早く終わらせましょうよ」
「そうだよね、私もちょっとつらいな」
新の言葉に小日向かなでが同意した。手には如月律が淹れたホット麦茶を握っているが、寒さを緩和するには至っていないようだ。
寒さにぶるぶると震える面々を後目に天宮静はいたっていつも通りの表情で頷いた。
「かなでさんが言うなら、はじめるよ」
鶴の一声に促されて静は改めて面々を見回した。
冥加、七海、土岐、東金、八木沢、火積、新、ハル、榊、律、響也、そして自分の傍らに座るかなで。天宮の視線を受けて皆一様に黙り込む。妙な緊張感が辺りを支配し、しかしそれを打ち破ったのも作り出した張本人だった。
「実は、かなでさんと結婚しようと思って」
「……」
「……」
「……」
「え、ええぇえっ」
永遠に続くかと思われるような沈黙を打ち破るように素っ頓狂な声を上げたのは他ならぬ小日向かなでだった。
「いや、なんでお前が驚くんだよ」
もはや条件反射の速度で響也が突っ込みを入れる。かなでは両手を頬にあてて振り返った。
「だ、だって聞いてなくてそんなこと」
寝耳に水と言うか、といいながらもその頬は赤い。そんな、そんなと繰り返すかなでに一同はとりあえず胸をなでおろした。
「な、なんだ。まだ同意すらしていないのか」
大地がそう言ってちらりと静に視線を送る。静は相変わらず感情の読めないひょうひょうとした態度でかなでをみた。
「……かなでさんは嫌?」
「嫌とか、そういうのじゃ」
「嫌?」
「い、嫌じゃないで」
「かなで、流されるな!!」
駄目押しのように訊かれてぐらついたかなでの感情を響也が現実に引き戻す。かなではうるんだ目ででもと続けた。
「でも、でも私静さんにあんな目をされたら」
「案ずるな、確信犯だ」
今まで黙っていた冥加が眉間を抑えながら答える。付き合いの長い彼は静の破天荒ぶりに振り回されっぱなしだ。それに、と冥加は冷静な表情で告げた。
「二人が同意した所で未成年は親の承認がなければ結婚は不可能だ」
「そうやで、かなでちゃん考え直し?」
恐慌状態に陥る周りとはうって変わり涼しい顔で蓬生が言う。
「そ、そうか」
「それはもう取ったよ」
「ええっ!!!」
「い、いつのまに」
「この間コンサートの帰りにかなでさんの実家まで行ってきたんだ。おじいさんが快くサインしてくれたよ」
「お、おじいちゃん」
「じじぃ!!」
「しかし、では天宮側は誰が書くのだ」
律が至極まじめな顔で天宮を見た。全員がその言葉にあっと驚いた表情をつくる。天宮だけがその問いを予期していたかのように目を伏せた。
「そうなんだ、それが問題でね・・・・・・僕は姉が一人いるだけで、家族はいないし。姉も現在遠方ですぐには受け取れない。先生とは疎遠になってしまったし」
「そうか」
律がそういって目を伏せた。天宮の境遇には同情すべきところがある。だが、だからといってかなでとの結婚は認められない。ハルがほうっと息を吐いた。妙な緊張感にいつの間にか息まで止めていたらしい。自らのペースを思い出すように二度三度瞬きをして天宮を見る。
「それなら無理ですよね」
「うん、だから是非みんなに」
「いや、無理だから。俺たちが承認しても無理だから」
響也がわかってねぇじゃないかと悲鳴を上げた。天宮は相変わらず感情をつかませない飄々とした態度である。
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃない。法律上も大丈夫じゃない」
「でも僕はかなでさんと結婚したい」
真剣な声に全員が思わず押し黙った。かなで一人が目をぱちくりさせ、それからもう、と大きく息を吐く。
「静さん」
静かにその名前を呼ぶと、いつも通り無表情な、それでいてその眼の奥に滲む不安を隠しきれない静が振り向く。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。私は静さん以外の所には行ったりしません」
「けれど、君はこんなにもみんなに好意を寄せられているから」
いずれ僕のことは嫌になるんじゃあないだろうか、という静にかなでは優しく微笑んだ。机の上に置かれた静の拳を両手で優しく包み込んで見上げる。
「私を信じてください、静さん。私はあなたが」
大好きです
囁くようなその言葉は静の耳元に優しく届いた。





「で、盛大なのろけやったっちゅうことかい」
目の前で繰り広げられた盛大な惚気話に全員を代表して東金はそうつぶやいたのだった。


comment=どんちゃん騒ぎが書きたかった。響也以外ほぼ空気。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -