天宮12 | ナノ




スライム



「静さん、見てみて!」
柔らかな陽射しが踊る春の午後。かなでがそういいながら何かを静の手の平に押し付けた。

ぴとりと何か冷たくて柔らかいものが手の平に乗る。なんだろうと視線を落とすと、衝撃的なまでにピンク色のどろりとした物体が手の平の上を占拠していた。
これは何、と視線だけで尋ねるとかなではにっこりと笑って
「スライムですよ!」
と言った。

―――スライム…

頭の中にふと過ぎったのは水色の涙型の物体だった。ついこの間かなでと買い物に出掛けたときに店頭で売られていた縫いぐるみの名前だ。響也がやってたゲームにでてくるんですよ。可愛いですよね、などと言うかなでに君のほうがずっと可愛いと言ったのは記憶に新しい。
静は記憶にあるスライムと手の平の上のアメーバー状の物体を比べた。
色も形もまったく違う。大体、あのスライムには間の抜けた、それでいてどこか愛嬌のある顔がついていたはずだが、手の平の物体にはそれがない。
疑問に思って首を傾げると、かなでが嬉しそうに静の手の中のアメーバーを突いた。
「懐かしいなぁ、久しぶりにつくったんですけど結構上手くできました」
「…作るの?」
「はい、洗剤とか絵の具とかでこう」
両手で作る仕種をしながらかなではにこにこと笑う。その笑顔がどことなくこの間みたスライムに重なって、静はにこりと笑った。
「そういえば、かなでさんはスライムに似ているね」
「え!?」
静の台詞にかなではびっくりしたように動かしていた手を止めた。真ん丸に目を見開いて静と、それからピンク色の「スライム」に視線を落とす。
「に、似てますか?…これに」
べちょりと手の平に乗ったスライム。ピンク色の軟体は色を除けばお世辞にも可愛いとはいえない。どう反応すればいいのかわからないかなでを尻目に静は手の平の「スライム」をぺちぺちと叩いてみた。柔らかいが、触った手にはくっつかない、不思議な物体。手から手え移し替えると、その姿形を変えながら静の手の平に落ちていく。
「これには似ていないけれど、この間の水色の縫いぐるみに凄く似てるよ」
面白いなあと思いながらそういうと、かなでは目をぱちくりさせてからほぅと息を吐いた。
「よかった、いくらなんでもそれに似てるって言われるのはちょっと、あ、でも」
あのスライムに似てるって言われるのもそれはそれでショックかもしれない。
なにやらぶつぶつと呟くかなでを放置して静は相変わらず手の平の「スライム」を弄ぶ。
柔らかな感触。どんな形でも相手を受け入れ柔軟に変化する姿。しかしいくら形をかえどもその本質は常にかわらない。
ぺとりと静の手の平に落ちたスライム。
静はふふっと笑って未だにとまどい続けるかなでに声をかけた。
「やっぱりこれにも似ているかも」







Comment=それってどういう意味ですかと戸惑うかなでエンドレス。

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