響也03 | ナノ



この思いが腐るまで、恋は死にましたかの続編です。律とかなでが結婚していて、子供がオリジナルキャラがでてきます。それでもOKな方はどうぞお進み下さい。















堆積する愛





「ねぇねぇ」
響也が生まれたばかりの子供を腕の中であやしていると、台所にいたかなでが不思議そうに声を掛けた。
「何で響也は結婚しないの?」
その言葉にうっかり噴出しそうになったのが響也だけではなかったのを、彼は目の端にしっかりと捕らえていた。テーブルについて新聞を広げている律の肩が一瞬びくりと震えたのだ。だが、何事もなかったように新聞を持ったままコーヒーを飲む落ち着きようはさすが律としか言いようがない。
まあもっとも、新聞によってかなでの死角に入っているその肩は小刻みに震えていたりするのだが。
「なんでそんなこときくんだよ」
可愛いかなでの子供を抱きながら響也は顔をしかめた。抱いている子供は先だって生まれたかなでと律の間の第2子だ。まだ生まれたてで首が据わらないのを腕に抱いたままかなでを見ると、食事の支度が一段落したのか着ていたエプロンをはずしながらかなでが近寄ってきた。
「響也、もてるでしょ?私知ってるんだから」
この間、女の子に告白されてたでしょとかなでは言いながら我が子の顔を覗き込む。その拍子にやわらかい匂いがふわっと漂ってきて、響也は思わず顔を赤らめた。いいにおいだ。母親になってもかなでは昔と変わらずほえほえしていて愛らしい。そんなだからいつまでたっても俺は諦められないのだと響也は内心毒づいた。
「ねぇ、ふっちゃったの?」
赤ん坊の頭を撫でながらかなでがそっと囁いた。その目が慈愛に満ちているのを感じて響也は小さく息をつく。

「俺にだって選ぶ権利はある」
「えーっ可愛い子だったのに」

どんなに可愛くってもお前じゃなきゃ意味はない

その言葉をうっかり吐き出しそうになり、響也は慌てて息を飲み込んだ。
律がばさりと音を立てて新聞をめくる。響也の気持ちを知っているはずの律は、知っているくせにこちらの状況には無頓着だ。ときどき助け舟ぐらい出して欲しいものだと思うのだが元が朴念仁な律にそれを求めるのは酷なのかもしれない。
「だって、響也子ども好きじゃない」
「好きだけど、それとこれは別だろ」
かなでの言葉に響也はそういって顔を歪めた。かなではもう、と鼻を鳴らして響也の腕の中でむにむに動いている赤ん坊の頬をつつく。
「どうしようもないおじちゃんで困っちゃいますねー」

どうしようもないのはお前だ

かなでの言葉に響也は内心悪態をついた。言葉にしなかったのはまた追求されると面倒だからだ。
ふいに背後からたったったと軽い足取りで誰かが走ってきた。そのまま背中に体当たりを食らって響也の体が前につんのめる。きゃっと短い声がして、柔らかいものが顔に当たった。かなでの胸だ。その正体に気がついて慌てて顔をあげようとするのだが、誰かに肩と頭を押さえつけられていて身動きが取れない。どうにか抱いている子どもを圧迫しないように抱きなおしながら響也はうなった。
「おい、こら。どけ」
「やだよー、へたれオヤジ」
響也の声に甲高い子どもの声が返ってくる。やっぱりなとその正体に響也は息を吐く。
「オヤジっていうな。響也さまとよべ。そしてどけ」
「やだっていってんだろ、とうとうボケちゃったのかよ。オ・ヤ・ジ」
「このガキ」
「なんだよ、このヘタレ」
「こら、歌(ウタ)やめなさい」
二人のやり取りにかなでがそういって口を挟んだ。だが当の子どものほうは聞く気がないらしく、響也の頭の上を独占したまま動かない。流石に体勢が苦しくなってきたところで、ようやく助け舟がやってきた。
「どきなさい、歌」
そういうのと同時に圧迫されていた首と肩が一気に軽くなる。ゆっくりと顔を上げると、律に抱き上げられた5歳児の姿があった。顔はかなでに似ているが意志の強そうな表情は律似だ。歌というのは響也がつけた名前で、いわば響也が名付け親なのだがこの子どもはそのあたりを理解していないらしくまったく持ってこちらを尊敬してくる様子はない。律に抱き上げられても相変わらずヘタレへタレと悪態をつきまくっている悪ガキにかなでは小さくため息をついた。
「もう、いったい誰に似たのか」

悪い、俺かも

思い当たる節は多々ある。かなでや律がいない間、まだ首も座っていなかった歌に半ば投げやりにかなでへの気持ちを言い続けたことがあるのだ。そんなものを子守唄にされた歌の性格が微妙に歪んでしまったのはやっぱり自分の所為かもしれない。

それにしてもヘタレって

確かに諦めるしかない感情をいつまでもずるずるずるずる引きずっているやつはそういわれても仕方がないのかもしれない。やれやれと響也が息を吐くと、律の腕から逃れた歌がまた懲りずに走りよってきて響也の耳元で囁いた。

「なぁなぁ、そんなに好きならもういっそパパから盗っちゃえよ」
「はっ!?」

びっくりして思わず声を上げると、歌は笑いながら走り去っていった。外に跳び出て行く間際、大きな声で子どもは叫ぶ。

「そしたらパパって呼んでやるよ。オ・ヤ・ジ」

その言葉に響也は顔を真っ赤にし、意味のわからない夫婦は不思議そうに顔を見合わせた。






あとがき

5歳児にばればれな響也。てか、子守唄代わりにそんなものを聞かせてはいけません。情操教育に悪いです。最初、子どもは名無し3歳設定だったのですが、弁がたちすぎるので5歳かつもう名前つけてしまえという開き直りでこんなことになりました。律とかなでの子どもだから安直に音楽関係の名前でということで歌。
そして響也不幸3部作これにて終了です。もう最後は不幸だかなんだかわからなくなってしまったけどね。そんなこんなできっと響也は結婚できないまま、律とかなでの家に居候と化してもういっそ家族の一員みたいになっちゃってるとよいと思います。

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