土岐11 | ナノ




ダメ。絶対








※かなで妊娠ネタ。流産話含みますので苦手な方は避けて下さい。







「あかん、絶対あかん!」
良く晴れた土曜日の朝。
自らの発言を正面から頭ごなしに拒否され、かなではむぅっと頬を膨らませた。
「なんで駄目なの、蓬生さん」
「なんででもや、そんな顔してもあかんもんはあかんのや」
せめて理由を求めるが、それはまた即座に却下される。

理由も言わないくせに止めないで欲しい。

かなでは若干すれていた。積もりに積もった不満が今にも暴発しそうだ。
そもそもこういったやりとりはもう1ヶ月前から続いている。
理由を言うでもなく外にだしてもらえない日々。
かなでと蓬生が結婚…正確には式はまだで、婚姻届けを出してから今日で丸1ヶ月。
かなでの我慢はもはや限界に達していた。
「なんででちゃ駄目なの!?私だって買い物とか行きたいのに」
「か、買い物やって!?そんなんあかんに決まってるやろ。なんでじっとできへんのや」
「じっとなんかできないもん!なんで少しも外に出してくれないの!」
じっとするにも限度がある。かなでの言い分に蓬生は血相を変えてかなでの両肩を掴んだ。
「万が一、お腹の赤ちゃんになんかあったらどないするん」
そういわれてかなでの動きが止まる。
そう、今かなでの胎内には三ヶ月になる赤ちゃんがいた。
まだ腹部の膨らみこそ目立たないが、病院で撮ってもらったエコー写真には確かに小さな生命の姿が写っている。
そもそも高校を卒業して間もないかなでと蓬生が籍をいれるのを急いたのも、卒業間近になってかなでの妊娠が発覚したせいである。

でも、それにしたって

過保護過ぎる、とかなではむくれた。いくら不安定な時期だからといって、運動しなさすぎるというのも問題がある。
第一、買い物といっても近所のスーパー。重いものを買うつもりなど毛頭ない。危険率はきわめて低いはずだ。
「赤ちゃんはわかってるけど、私も外に出たいの」
少し散歩をするぐらいは許して欲しい。そうでないと自身がストレスで参ってしまう。蓬生に上目遣いでそう訴えると、蓬生は、彼にしては珍しく非常に困った顔をして、ゆっくりと息を吐いた。
「あかん」
「っ、なんで」
静かな声で拒否されて、かなでの頭に血がのぼる。かっとなって声を荒げると、それに反比例するかのように蓬生は落ち着いた声でまた同じ言葉を繰り返した。
「あかん…絶対」
「っ!だったら、理由!!せめて理由を教えて下さいっ」
そうでもないと頭がおかしくなる。かなでの切羽詰まった言葉に蓬生は困った顔をして天井を見上げた。
「俺な、本当は一人っ子やなかったんよ」
「え」
しばらく逡巡したあと、唐突にそんなことを言われて、かなでは呆けた表情で蓬生を見上げた。蓬生はまだ何か、迷うように天井を見上げたあと、ゆっくりとかなでに視線を落とす。
常人よりはるかに色素の薄い瞳に宿る真剣な光にかなでの頭に上った血が一気に下がった。
「俺、本当は兄弟がおったはずなんよ。兄か姉か」
そのどちらもか。
でも、生まれることはなかったのだと蓬生は目を伏せた。みんな三ヶ月を過ぎたあたりで流れてしまったのだという。父も母も、努力はしたがどうしようもなかった。遺伝的な問題か、はたまた相性か、単に体調管理に問題があったのだろうか。妊娠初期は流産の危険性が高いとはいえ、度重なる流産に両親は一時精神的に追い詰められていった。そんななかで漸く授かったのが蓬生。ただ、その子供も病弱やけどな、と自虐的に笑う蓬生にかなではかける言葉が見つからなかった。
そうして、不意にそういえばとかなでは思い出す。かなでにも本来は妹か弟ができるはずだった。かなり早い段階で流れてしまった命。幼いかなでには理解できなかったが、子供をこの身にやどした今なら、両親の無念がわかるような気がする。
かなでは無意識に自分の下腹部を押さえた。蓬生とかなでの間に生まれた、幼い命。
かなでにも蓬生にも遺伝的にその要因がある可能性が拭えない以上、蓬生が過保護になるのもわからなくもない。わからなくもないが―――
「…大丈夫ですよ」
不安を払拭するように、かなでは勤めて明るく言った。蓬生が目を丸くしてかなでを見る。
「私と蓬生さんの子供ですから」
確証なんかなかった。でも、何故か妙な自信がある。母になる予感だろうか。かなではにこりと笑って腹から手を離し、そっと蓬生の背中に腕を回した。心配してくれる彼を愛しいと思う。彼がこの1ヶ月頑なに理由を拒んだのは、おそらくかなでの為だ。かなでも一人っ子。蓬生と同じ境遇である可能性を鑑みたのか、あるいはかなでの両親に何かを聞かされたのか。

あるいはその両方かも

なにせ、人の感情の機微には聡い人だから。かなでは苦笑して、それから小さな声でありがとうといった。それだけで蓬生は何かを悟ったのだろう。僅かに体をわななかせ、ごめんなと囁く。その背中をよしよしと撫でながら、かなではでもねと続けた。
「大丈夫です、絶対…私と蓬生さんの子供は絶対大丈夫」
女の勘はあたるんです。だから安心してと笑うかなでに蓬生はゆっくりと目を閉じた。





(だから、ちょっとくらい外に出して下さい)
(それはあかん)



Special Thanks=紅花様
Comment=らぶらぶ…?なんかシリアス。紅花さんに捧げますが、返却は可能です。

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