大地07 | ナノ




所有物






○月×日
ひなちゃんの顔が腫れているのをみた。
理由をきくと、こけたという。

○月△日
足をくじいたといって、ひなちゃんは杖をついていた。

○月□日
腕を痛めた、といってひなちゃんは右手首に湿布を貼っていた。




「……俺のこと馬鹿だと思ってない?」
榊大地はそういって小日向かなでを睨みつけた。
場所は星奏学園音楽科の校舎裏。人気のないその場所は逢い引きと密談をするには調度よい。
「ひなちゃん」
微笑みながらそう呼ぶとかなでの肩が小さく震えた。
「怪我の理由、聞いてもいい?」
「そ、それは私が」
「ひなちゃん」
三回目はないよ、と微笑まれてかなでは言おうとした言葉を飲み込んだ。怯えるように大地を見上げ、小さな声ででも、と囁く。
「わ、私の問題だから」
「彼氏の俺はそんなに頼りにならない?」
「そ、そんなわけじゃ」
かなでは慌てて顔を上げた。その顔にまた新しい擦り傷が増えているのをみて大地は顔を歪める。
ここ最近、かなでは怪我ばかりしている。
最初は膝とか肘とかの擦り傷。本当に取るに足らないような傷だった。
「また階段で転んじゃった」
笑いながらそう言ったかなでは実際によく転ぶので、大地も彼女の言い訳を鵜呑みにした。
だが日毎に傷が増え、しかもひどくなっていく。
擦過傷、創傷、打撲、捻挫、そして極めつけは右足首の骨にひび。
エスカレートしていく怪我は大地にある可能性を考えさせた。
そして、その可能性を明確化するためにかなでに詰め寄るのだが、かなではそのたびに違うのと首を振るのだ。
彼女曰く、これは自分のミスで、誰かがなにかをしたわけではない…と。
それを鵜呑みにできるほど、大地はお人よしではなかった。
いくら彼女が抜けている、といっても限度がある。
そして今日、手首を痛めた彼女をみた瞬間堪忍袋の緒が切れた。
「ひなちゃん」
手首はバイオリニストの彼女にとっては命の次に大事なものだ。それを痛める、なんてことはそうそうあっていいことではない。
校舎の壁に追い詰められたかなでは、震えながら大地をみた。眉は八の字に下がり、目尻には涙が溜まっている。そのくせ、その大きな瞳には今だ衰えぬ意思の力があった。
「私が、私が悪いんです、私が彼女から大地先輩をとったから」
「彼女?」
私が悪い、とひたすらに繰り返すかなでの顔の横に手をついて、大地は小首を傾げた。
かなではあっと小さく声を上げて、俯く。
大地は彼女、彼女と口のなかで反芻し、それからある人物を頭の中に思い描いた。
よく自分に媚びを売ってきて、かなでの学生生活に多少関わりのある人物―――
ああ、一人しかいない…か

「…音楽科の―――さん?」
その瞬間、かなでの肩がびくりとはねる。
違います、と小さな声で否定したが、大地はため息をついてわかりやすすぎるかなでの反応に苦笑した。
「残念だけど、ひなちゃんに嘘をつく才能はないよ」
「そ、そんなこと」
ない、と否定しようとしたかなでの小さな顎を大地は右手で掴んだ。びっくりして動けないかなでを上向かせて、そっとキスをする。
指と舌で唇をこじ開けると、またかなでの肩が震えた。
「ふ、ぁ、せ、んぱい」
「ひなちゃんに嘘をつく才能もごまかす才能もないよ…でもそういうところも全部好きだ」
だから、許せないんだと唇をくっつけたまま大地が囁く。
「ひなちゃんは俺のものなのに、傷とかつける奴とか」
あと、それをかばう君も―――
「許せないんだよ」
そういって笑う大地の笑顔の奥に確かな怒気を感じて、かなでは体を萎縮させた。






あとがき
リハビリ…。多分かなでにはこのあとお仕置きエロが待っている…

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