響也01 | ナノ


現在Up中の「思いが腐るまで」の続きですがおそらく単独でも読めます、かなでちゃんが律の子供を妊娠していても許せる方のみ以下にお進み下さい。











好きだった幼なじみと兄との間に子供ができた。
それでもあきらめきれないのは、この思いが今でも腐らずに生きているせいだろうか。




恋は死にましたか?




かなでが妊娠して、十月あまりがたった。もう、いつでてきてもおかしくないくらいパンパンにはったお腹にはちゃんと人間の形をした生き物がはいっているらしい。
久しぶりに如月の実家に帰省すると、大きなお腹のかなでがそういって出迎えた。
「性別は聞いてないんだよ。出てきたときに知ったほうが嬉しいから」
そういってお腹をさするかなではもう母親の顔に見える。
響也はそうかといってかなでから目を逸らした。
なんだか見ていられない。どうしてあの顔をさせているのが自分ではないのだろう。
未練たらしい感情が頭の中をぐるぐるまわる。そんな響也には気付きもせず、かなでは暢気にお腹を触ってという。
正直、冗談ではないと思った。
好きだった…今でも好きな彼女のお腹を…しかも別の男の子供がはいっているお腹を触れるわけがない。
男心のわからないかなではなんでなんでとしつこく食い下がってきたが、やがて疲れたのか畳の部屋の真ん中にぐてんと転がった。
「そんなとこで寝ると風邪ひくぞ」
心配して声をかけると、思いのほかか細い声が返ってくる。
「なんか、お腹痛い」
「えっ」
「陣痛かなぁ?」
とんでもないことを口走りはじめた幼なじみに響也は焦って走りよった。
横たわるかなでの顔を覗き込んで、想像していたよりも真っ青な顔色にまさかが確信にかわる。
こんなときに限って両親と律は離れた親戚の家にいって留守だ。向こうで十三だかの法要があってどうしても出かける必要があったらしい。そもそも律とかなでが結婚してから実家に寄り付かなくなった響也を無理矢理呼び戻したのも、臨月のかなでを一人で放っておけなかったからだ。

だからって、何もこんな日に出て来なくても

内心毒づきながら、響也はかなでを励ました。
「がんばれよ、かなで」
すぐに病院つれていってやるからな。かなでの背中を撫でながらいうと、かなでは弱々しい動きで頷いて見せた。


それから病院につくまでの間のことは余りに焦り過ぎて記憶にない。

ただ必死にかなでを励ましながら田舎道を車で急いだ。
時々舗装がちゃんとできていなくてがたがた道の振動が車内に伝わる度に行政の怠慢に悪態をつく。
かなでは真っ青を通り越して真っ白になった顔で、それでもいちいち響也の悪態に反応して笑った。

病院についてかなでを助産師に預けた響也はその足で公衆電話にむかった。
かなでの夫である律の携帯に電話をかける。
ことの次第を聞いた律は開口一番間に合わない、とだけ告げた。理由を問うと帰る途中の道が事もあろうに崖崩れによって寸断されてしまったのだという。
「どんなに急いでも明日だ」
事実をなんの飾りもなく告げる律に怒りを感じた。
「かなではどうするんだよ」
「お前がついててくれ」
「あのな」
事もなげに言う律に響也は苛立つ。
「俺がかなでの事をどう思ってるかぐらい知ってるだろ」
半ば八つ当たりの様に電話口で怒鳴った。音の許容量が限界に達したのか、受話器がきぃんと高い音をたてる。
だが律はいたって冷静のようで、ハウリングが鳴り終わるのを待つといつもの調子で言葉を紡ぐ。
「だからこそ、そばにいてやって欲しい」
「なんだよ、それ」
「かなでのことを近くで今1番わかってやれるのはお前だ…」
悔しいが、とため息の様な声が最後に続いた。その言葉に響也は一気に体から力が抜けるのを感じた。

そっか、兄貴も辛いのか

いつも鉄仮面をかぶっているからわかりにくいけど、律にだって人並みの感情はある。
最愛の妻の初産に立ち会えないことがどれだけもどかしく、辛いことか。

簡単に想像できる
だって俺もかなでが好きだから

響也は小さく息を吐くと、先程とは打って変わりどこか諦めを含んだ声音で言葉を吐き出した。

「わかったよ、かなでのことは任せとけ」
「すまないな」
「…そのかわり」

大好きな人を奪ったのだからこれくらいの我が儘は許されるだろうか。
対して期待もせずに言ったその提案を律はあっさりと受諾した。




結局かなでの初産は助産師曰く、ものすごく安産だった。
分娩室に入って2時間も経たないうちに産声が聞こえ、勘違いした助産師がおめでとうございます、これでお父さんですねなんて声をかけてきた。
いやいや、違う、父じゃなくて叔父だと否定したが助産師は全くこちらの話は聞く気がないらしく、早く抱いてあげて下さいなんて言いながらずるずると響也を分娩室に引きずっていく。
分娩室では真っ赤な顔をしたかなでと白い布の固まりがいて、助産師は白い布な固まりを大事そうに抱き上げて響也に渡す。
恐る恐る受けとって布のなかを覗きこめば、猿のような顔の、でも涙がでるくらい愛しくて可愛い赤ちゃんがもぞもぞと動いていた。
「ふふ、お父さんより先に抱っこしちゃったね」

助産師の助けを借りて半身を起こしたかなでが悪戯っ子のように笑う。
響也はそうだなと微笑むとむにむにと動く手にそっと指を入れてみる。
反射の様にぎゅっと指を握られて、意外なくらい強い握力に驚きつつ響也は笑った。
「お前の名前、考えないとな」
ぼそりと呟くとかなでが目を丸くした。
「響也がつけるの?」
「律に許可は貰ったぞ」
「えぇっ」
そんな勝手な、と言いつつも反対する気はないらしくかなでは響也から赤ん坊を受け取って言葉を続ける。
「いい名前にしてね」
そういって微笑むかなでの表情はまるで聖母のようだと思った。
優しくて、慈愛に満ちた母の顔。その顔を見た瞬間今まであれほど未練たらしく纏わり付いてきた「好きだ」という感情が消えて、かわりに別の感情が生まれるのを感じた。

ああ、俺はかなでの事を
愛している

悪化してるじゃないかと自嘲した響也にかなでは不思議そうな目をむける。
響也はなんでもないといってかなでの抱く赤ん坊を覗きこんだ。
愛しい人が産んだ小さな命。それだけで愛しいという感情が沸いてくる。
「約束だよ?」
返答のない響也に業を煮やしたのか、念を押してくるかなでに勿論だと呟いて、小さな赤ん坊の頭を撫でた。



この日俺の恋は死にました。そのなきがらを苗床に愛が生まれました。




あとがき

報われない響也が好きです←ひどい
とりあえずClapにある話の続きといえは続き。ただ、これだけでも十分独立している気もします。恋が死んだら愛が生まれたという、救いようのない話ですが個人的には割と満足なお話です。何より律をちょっとだけ書けた。律単独だとなかなか話がまとまらないんですよね…どっちもそっち方面にボケていそうだから。そして響也が被害を被ると…素敵。

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