土岐02 | ナノ



破れ鍋に閉じ蓋



「ねえ、昨日何してたん?」
にこにこと笑いながら土岐蓬生はそういって助手席のかなでを見た。
今日は久しぶりのデートで、夏の大会が終わり名実共に恋人となってから初めてのデートだ。土日月の連休を利用してわざわざ神戸から来てくれた恋人に、何故か薄ら寒い笑顔を向けられ、かなではたじろぐ。
「昨日は別になにも」
「電話、でえへんかったやん」
昨日、昨日と記憶を探るかなでに土岐はそういって近くのパーキングエリアに車を止めた。どこかの公園の駐車場らしいそこは、すでに夕闇の降りたこの時間では停まっている車も疎らだ。車のサイドブレーキがひかれたのを確認してかなでは自分を拘束するシートベルトを外そうと手を伸ばし、その手を別の手に遮られた。
「質問、答えてや」
相変わらずにこにこと笑ったまま蓬生がささやく。かなでは困った様に眉を顰めた。
「昨日の電話ですか?」
「そうや」
「何回目の?」
かなでとて、昨日の記憶を思い出せないほどの記憶力の持ち主ではない。ただ毎時間、授業が終わる度に蓬生から電話がかかってくるので、どの電話に出られていないのかかなで自信把握のしようがない。
困った顔のままのかなでに蓬生はふぅんと鼻をならした。
「何回目かは知らん。4時から7時の間や」
結局のところ、蓬生も何度電話をかけたかまでは把握していないらしい。かなでは4時から7時、とつぶやいて首を傾げた。
「部活の時間ですね」
「そやな」
わかっているとばかりに蓬生は頷いた。
「いつもの休憩時間にかけたんや、なのに何度コールしても出んかった…なんで?」
部活なんだから部活以外していないのだが、蓬生はどうも何かを疑っているらしい。
薄ら笑いがいつの間にか不安げな表情になって、かなでを見つめている。
かなではううん、と首を傾げ、それからあっと声をあげた。
「昨日は3時の電話の後に電池が無くなっちゃって、友達に充電器を借りて離れた場所で充電してたんです。だから――」
気付かなかったんですね、と笑うかなでに蓬生はなおも不安そうな表情を浮かべた。
「ほんま、それだけ?」
「?そうですよ」
「ほんまのほんまに?」
「間違いありません」
「神さんに誓える?」
「……蓬生さん」
不安げに詰め寄る蓬生にかなでは小さく息を吐き、こちらを覗きこんでくる蓬生の色素の薄い瞳をみつめる。
「信じてくれないんですか?」
真っ直ぐに二人の視線が交錯した。暗がりでもかなでの明るい色の瞳はよくみえる。その目の中に微塵も偽りがないのを感じとって蓬生は漸く息を吐いた。そのまま、自分のシートベルトを外してかなでの膝に頭をのせる。
「信じるわ。疑って(うたごうて)ごめん」
今度は別の意味で不安そうな蓬生にかなでは微笑む。「蓬生さんって意外とやきもちやきやさんですよね」
「……」
「電話出ないと怒るし、メール返さないと不安になるし」
「…幻滅した?」
膝の上から問われてかなではううんと首を振った。むしろ、と笑って続ける。
「愛情を感じます」
「なんや、それ」
かなでの言葉に蓬生は安堵して目を閉じた。
もともと暗かった視界はそれで完全に闇に閉ざされ、ただ近くにかなでの温もりと鼓動を感じる。
いっそ世界に二人きりだったらこんな不安を感じることはないのだろうかとの呟きはかなでの苦笑によって闇の中に霧散した。






あとがき
土岐かなです。そしてこんな拘束彼氏はお断りです。でも土岐とか榊とかはしそうなイメージ…どんだけ。最初は榊かなイメージでプロット考えたのに気が付いたら土岐になりました。榊かなだと裏一直線で怖い。グロとかもいけそう。医学生だし…

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