『ちゅ、ちゅ、』

しばらく目を閉じたまま、指のあちこちに接吻を施していた彼は、ふいに、唇間に俺の爪先を食んだまま、静かに目を開いた。それから上目ぎみにゆっくりと俺を見上げる。
ひたひたと塗れたように光る瞳が、俺を射た。瞬間、恐怖にも似た何かが、ぞくぞくと背筋を駆け上げるが、不思議と目をそらせない。
思わず見とれていると、赤い唇が微かに動く。

「存外に細いな、噛み千切ってやろうか。」
「…っ、…よせ。」

俺が一瞬、ぴくりと体を強ばらせると、彼のひたひたの瞳が細く笑った。
「冗談だ、かわいいな。」
くすくすと笑う吐息が、指先をくすぐる。
「…どうだか。そんな目で"冗談"と言われても説得力に欠ける。」
俺が顰めっ面で言えば、ふん、彼も不服そうに鼻を鳴らした。

「なんだ、俺は今どんな目をしている。」
「分からんのか、そんな目だ。」
「分からんから聞いている、そんな目とは、どんな目だ。」
「ともすれば、本気で俺の指を食いちぎりそうだ、そんな目だ。」
「なんだ、そんな目か、ならば、仰せの通り、食おうか。」

言うが早いか、彼はかぱりと真っ赤な口を開け、俺の中指と人差し指をパクリと食べてしまった。
思わず俺の喉から「ひッ、」と引きつった声が上がった。なにも彼に言ったのは戯れの冗談ではない。俺は確かに、先程の彼の瞳に、指でも平気で食いちぎりそうな、猟奇的な何かを感じていた。

身構えた俺に、しかし彼は、俺の指を甘く口に含んだまま、くっくっと笑っただけだった。

「そう身構えるな、噛み切りはしない。」
「し、信用できるか!」
「へぇ、そうか、まぁ、信用しなくても構わないが、あまり暴れるとうっかり噛み切ってしまう事もあるかもな、つい、うっかり。」
「う、」

言葉に詰まると同時に、今更ながら、指先に触れている口内の感触が、じわりとせり上がってきた。嫌に熱い。




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