※妹子が病んでる
※グロ表現あり
R16








コツコツと、石の階段を降りる。
地下のひんやりした闇が、優しく僕を招いてくれた。

ろうそくの灯りが、静かに石の壁を濡らすなか、僕はゆっくりと足を進めた。

やがて辿り着く重い鉄の扉。

僕は壁に燭台をかけると、懐から鍵の束を取り出した。


ガチャガチャガシャガシャけたたましい音を響かせながら、幾重にも重なる鍵を外し、鎖を解き、閑を抜く。
やっと解放された鉄の板を、体全体を使って押した。


ぎいっと錆びた悲鳴をあげ、扉が開くと、むわっとした空気が僕を襲った。
同時に、日の光が届いたことのない、凍るような闇がぽっかりと口を開ける。



僕は何のためらいもなく中にはいると、いつもの通り部屋の中を歩き回り、燭台に火を灯してまわった。
部屋の壁や床に点在する燭台の位置は、もうほぼ覚えてしまった。


部屋が橙で満たされ、ようやく部屋全体を見渡せるようになる。



部屋の隅に、テディベアのように愛らしくうなだれた貴方を確認した。



ああ、やっと見つけた。





「太子」




僕は微笑みながら、つとめて優しく彼の名前を呼んだ。

彼は答えない。
照れているのだろうか。

可愛いおっさんだな全く。


「太子」


僕はゆっくりと、太子に近付いた。




「太子、」

「太子、ねぇ太子。」

「太子、聞こえないんですか?」

「ねぇ太子、太子、太子、」











僕は太子の前にひざまづいた。























「太子、太子、太子、太子、太子太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、」











鼻先が俯いた太子の額に付くほど顔を近づけ、何度も名前を呼ぶ。








「太子、太子、太子、太子、太子太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、太子、」










―――――何度呼んでも、何度呼んでも、太子は答えない。













僕はにこりと微笑むと、力任せに太子の頬を殴った。
ぐしゃりと音がして、太子の首がもげるのではないかと思うほど吹っ飛んだ。






「太子、僕の言うことが聞けないんですか?」


言いざまにまた殴る。


「太子」

ゴッ

「太子」

ゴッ

「ねぇ太子」

ゴシャッ

「聞こえないんですか?太子、」

グシャッ

「僕の声が聞こえない耳は、切り取ってしまいましょうか。」

ゴッ

「あ、もう切り取ってしまったんでした。」

ドゴッ

「でも太子なら聞こえますよね僕の声。」

ゴッ

「太子なら聞いてくれますよね僕の言うこと。」

ガッ

「だから顔を上げてください太子。」

ゴッ

「ねぇ、上げてってば。」

グシャッ

「太子、太子、太子、」
























「どうして顔を上げてくれないんですか僕を映す目が無いことを気にしているのですかそれなら心配要りません貴方の目玉なら薬漬けにして僕の懐にあります僕の名前を呼ぶ口が縫われていて開かないことが悲しいのですかそれなら大丈夫です貴方の声なら僕の鼓膜に脳髄にこびりついてます僕を抱きしめる腕が縛られていることが苦しいのですかそれなら気にしないでください貴方の小指はちゃんと僕の腹の中で僕に触れています僕に歩み寄る足が体から離れてるのがもどかしいのですかそれなら心配要りません貴方が歩み寄れなくても僕がこうして近づいて抱きしめてあげますだからさあ、その醜くて汚くて可愛い可愛い可愛い顔を見せて!見せなさい!早く!!早く!!早く!!」





ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴシャッ、ゴッ、ゴシャッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、



僕は太子に雨のような拳を降らせた。
酸素の薄い地下は、少し動くだけですぐ息が切れてしまう。

頭がぐらぐらして感覚が無くなっていく。
今自分が何をしているのかすら分からない。

ただ、太子が僕の言うことを聞いてくれないのが悔しくて、悲しくて、ただ拳を振り下ろした。





ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴシャッ、ゴッ、ゴシャッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、





「なんで貴方は僕の言うことを聞かない!」

「貴方は僕を愛していないのか!!」

「僕はこんなにも貴方を愛しているのに!!」

「閉じ込めて!縛って!切り取って!抉って!縫い付けて!!」

「どうしても移り気な貴方が、どうやっても僕しか見れないように!!」

「貴方を僕で満たして差し上げたのに!!」

「なぜ、なぜ、なぜ、なぜ!!」









腕が止まらない。

思いが溢れて止まらない。














「なぜ貴方は僕を見ない!!」





グシャッ!!





渾身の一撃は、かろうじて形を保っていた太子の顔を、ついに粉々にした。





びちっと音がして、肉片が、僕の頬に、拳にこびりつく。





僕は腕を止め、血や肉片や潰れた蛆虫(ウジムシ)で汚れた拳を見やった。









そして僕は満足げに微笑むと、太子に覆い被さって、腐敗しかけの躯(からだ)をそっと抱きしめた。
床に両膝を立てた拍子に、足元に白く群れていた蛆がぶちゅりとつぶれ、羽虫がワァンと音をたてて飛び立つ。
僕は寄生した虫が擦り潰れるのも気にせず、太子の背中を何度も撫でた。











「こんな醜くて汚くてどうしようもない貴方を愛せるのは、僕だけでしょう?」










そうだ、これは愛だ。










僕は微笑むと、蛆の蠢く太子の肩口に鼻を押し当て、強く抱きしめた。
太子の服の下で腐りかけた皮膚がずるりと剥けた気がしたが、関係はない。








「ねぇ、太子。」

「目玉が無くても、」

「声が無くても、」

「腕が無くても足が無くても、」

「臭くても汚くても醜くても、」












「生きて無くたって、」














「貴方は僕の可愛い太子なんです。」










嗚呼、これを愛と呼ばずになんと呼ぶのか。






僕はぐちゃぐちゃに崩れた愛しい貴方の唇にそっとキスを落とした。










-END-





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2009 12/15(水) 幸弥 唯奈

だいぶ前に書いたもの。
初めて公開する日和小説がコレで良いのか^P^←
ヤンデレって難しいですね。愛故の独占とか異常行動とか、表現するのが大変です。

妹子が狂った理由は色々考えてますが非常に説明しにくい(文にすると長くなる)のでお好きに想像してください。


正直ヤンデレはあんま好きじゃないですが、不思議な魅力を感じたので挑戦してみました。

でもやっぱ飛鳥はほのぼのがすき




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