※一応、臨静臨に作ったけど、Sakiyaはこんなんでも臨静と言い張るよ!←
※当然のごとく臨也が変態だよ!
※当然のごとく二人は恋人だよ!
※当然のごとく二人が仲良しだよ!
































「なんだソレ…」
「わかんないの?」

8月の暑い日、呼び出された臨也の事務所。
応接用ソファに座っている臨也。
その目と鼻の先、応接用の低い机の上、俺を迎えてくれた、コロンと二つだけ置かれたソレ。



「桃だよシズちゃん、もーも。」







title「8月の誘惑」










「いや、そりゃわかる。」

いくらなんでもそこまでバカじゃねぇよ。問題はなんでそんなものがここにあるのかという事であって。
だって、どこからどう見たって。

机の上の可愛らしい桃と、目の前のうざったいノミ蟲を交互に見比べる。
そして、

「似合わねぇー…」
「ちょっと、何と誰見て言ってんの。」

双方が顔をしかめた。

「あのさぁ、言っとくけどこっち側からは金髪グラサンのバーテンダーと桃が見えてるんだからね。似合わないとかそういう次元じゃないよもはや。」

あー、うっせーうっせー。
ぐちぐちと五月蝿い臨也の文句を聞き流しながら、反対側のソファに歩み寄り、ドカリと腰を据えた。
室内はエアコンがきいていたが、なんせ律儀にここまで歩いてきてしまったのだ。吹き出す汗はなかなか止まってくれない。
汗でしっとりとした前髪をかきあげ、タイのフックと、その奥のボタンをひとつ、ふたつ、くつろげると、前に座っている臨也が顔をしかめた。

「なに、シズちゃん誘ってる?」
「死ねよヘンタイ。」


「やだひどーい、冗談じゃなーい」。ケラケラ笑う臨也。いや、さっきの目はぜってーマジだったろ手前。
まぁ、しかし、コイツの変態思考はいつものことだ。半ば諦めにも似た感情を抱きながら、さらりとかわし、改めて机の上の物体をみた。

丸くて、柔らかそうで、パステルカラーで。見るからに、体全体で「わたし甘いです」と主張ているようだ。

(そういや、もうそんな季節か。)

俺は桃の旬を思い出しながら、過ぎる夏の早さを思った。


「・・・・・・・・・・、」


と、今までずっと黙っていた臨也が、す、と細い腕を伸ばした。
少し身を乗り出し、桃を手に取る。
その際、あの特徴的な白くて長い指をあまりにもゆっくりと桃に絡ませるものだから、不覚にもエロいとか思ってしまったあたり、俺は変態臨也病に感染してしまったらしい。大いに屈辱だ。

「…………………」

臨也は再びソファに身を沈めると、片手にある桃を自身の鼻に持っていった。

<すぅー――…>

目を伏せた臨也と、大きく息を吸い込む音。









「…………あー、いい匂い。シズちゃんには負けるけど。」
「黙れ、死ね、変態。」





雰囲気ぶち壊すなこの野郎。
だがしかし臨也は悪びれもせず。


「その罵倒コンボ聞き飽きた。」
「うざい、きもい、きえろ。」



「む、そうきたか。」とか顔をしかめやがったので、煙草をくわえてやった。なんかイライラしてきたぞ。

「シズちゃん、ここ禁煙。」
「うるせぇ。」

煙草に火をつけ、ふぅーと、一息。



「………で、いいものってそれかよ。」
「うん、そー。ちょうど知り合いにもらって、シズちゃん甘いの好きかと思ってさ。」

ここに呼び出された時、電話越しに臨也は「いいものがある」と言っていた。だからこそ、わざわざこんなトコまで電車と徒歩できてやったんだ。「いいもの」のためだぞ、勘違いすんな。
しかし、桃か。期待してなかったがマジで良いもんだった。臨也もたまにはやるもんだ。



……なんてちょっと見直した直後。
にやにや、臨也が言う。



「あ、もしかしてもっとエロいの期待してた?」
「禿、屑、蟲。」



「ハゲはないんじゃない、ハゲはっ!!」とっさに頭を抑える臨也。なんだ、髪にボリュームが無いの気にしてたのか。パーマあてろよ馬鹿。


グズグズ言い出した臨也を一瞥、…してガン無視。
ぐしり、煙草を携帯灰皿に押しつけ、机に向き直る。それから何気なく、自分ももう一つの桃に手を伸ばした。

「あ、シズちゃんが触ると潰れちゃうからやめてよー。」





思わずびくりと手が止まった。


「あ、アホかっ。それくらいの力加減はできるっ……。」


と、いいつつ手が震える。くそっ、臨也の思う壺だ。

にまにま、笑う臨也を視界の外に叩き出し、ゆっくりと桃に指先を触れた。


ざらり、意外と毛がかたい。
相当新鮮なんだな。指先がちくちくする。
ソッと側面に手を添えて、潰さないように持ち上げる。

ずしり、見た目に反して意外と重い。
危うく指先に力を入れかけてしまって、エアコンのきいた部屋には不釣り合いな汗がつっ、と。



「……ねぇ、悪かったって。そんなに怖がんないでよ、桃相手に。そんなシズちゃんも可愛いけどさ。」

「う、うるせぇっ」



あまりに慎重になっていた俺を見かねたらしい臨也が声をかけたが、逐一一言多い。
しかし、臨也に言われると安心してしまうのはなんでだ。ふと見れば手の震えは止まっていて、なんだかしゃくだった。ちくしょう。


納得できない。むすっとしながら、片手にちょこんと乗っかってくれた桃を、自分の鼻先に押しつける。

途端、濃厚な桃の香りが鼻をくすぐって、思わず目尻を下げ、目を伏せる。
少し勿体ぶって間を開けた後、


すぅ、


息を吸い込めば、甘ったるいような、透き通ったような香りが鼻腔いっぱいに広がって、思わず、きゅう、と目を閉じた。



「あまい…」
「へぇー、シズちゃんさんは食べなくても味がわかるんですか、すごいですねっ。」

嗚呼、もう、

「黙ってろ。」



目を閉じたまま一喝すれば、おや、これは珍しい。臨也がおとなしく黙った。






…すぅー、すうぅー、






何度も何度も深呼吸する。
その度、夏に不釣り合いなようでどこかそれっぽい、桃のかせりが胸を埋めた。
どこか懐かしい気がして、安心する。



(あ、やべ。寝る。)



心地よい睡魔の誘惑に意識を預けようとして、







「はぁい、終了。」

耳元で臨也の声がしたと思ったら、手の中の桃が後ろから取り上げられた。

ん?後ろから?

ついと振り返れば、臨也の鼻と俺の鼻がぶつかり合い、


「近ぇよ変態、暑苦しい。」


思わずデコピンをかます。

「った!!!」

のけぞる臨也の胸元を押し返す。あ、よろけた。でもコケない。ちっ、舌打ち。


「ちょっと、シズちゃん、コケて桃つぶれたらどうするの!」
「手前が這いつくばって舐め取ればいいだろ。」
「き、鬼畜受けうぶっ」」


投げたクッションを臨也が顔面キャッチ。我ながらなかなかナイスなコントロール。
しかしイライラはおさまらない。


「人の桃勝手に取りやがって、挙げ句セクハラか。警察突き出すぞ。」
「ちょっと、桃は元々俺のじゃない。それにさ、桃は嗅ぐものじゃなくて食べるものだよ、シズちゃん。」

ぐ、言葉につまる。

「それにさー、」臨也が続けた。



「桃ばっかりに構って俺に構ってくれないんじゃ、何のためにここに呼んだか分からないじゃない。ね、シズちゃん。」


にこり、笑った臨也が台所へと向かう。ふわ、振り向いた臨也から、桃の香り。





「・・・・・・・・・・・。」




なんだよ、俺は「いいもの」目当てでここに来たっつーのに。

「いいもの」を二人で楽しみたくて呼んだ手前と一緒にすんな。





「・・・・・、」


カチリ、ソファに腰掛け二本目の煙草に火をつける。



……もしかしたらあの桃はわざわざ買ってきたものではなかろうか。


そんな推測が頭をかすめ、そしてそれはどうも、外れている気がしなかった。



「・・・・・・・・・・・」



ぐしり、付けたばかりの煙草を押し付け、ソファを立ち上がる。





「・・・・・・・・やっぱ手伝う。」



















そして、台所に向かってみた俺が、さっき俺が嗅いだ方の桃をまた更にフガフガと嗅いでいる臨也を見つけて殴り飛ばしたのはまた別の話。














『8月の誘惑(前編)』







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