「『春』でイメージするもの…?」
俺が片眉を釣り上げて聞き返すと、アイチが慌てて下を向いた。
「あ、えっと、うん…。『春』って聞いて、櫂くんがイメージするものなんだけど…、その…」
「よかったら、教えてくれる?」と、上目気味にこちらを伺うアイチは、何故だか少し恥ずかしそうだった。



title『花より』



「…普通に考えれば、」
質問の意図はよく分からないが、テーブルに片肘をついたままとりあえず答えてみる。

「『桜』なんじゃないのか?」

至極一般的な、当たり障りの無い答えだと思ったのに、途端、向かいに座るアイチが大袈裟に肩を落とした。
「そっかぁ…やっぱり、そうだよね…。」

なんだ、俺は何かおかしな事を言っただろうか?今の答えのどこに、そこまで落ち込む要因があったんだ。
眉を潜める俺などお構いなしに、俯いたままのアイチが「やっぱり、櫂くんもかぁ……。」なんて、ため息までつきやがったから。

「おい、さっきから何の話なんだ。」

色々と訳が分からない俺は、痺れを切らして問いかけた。

「い、いや…、大した事じゃないんだけど…!」
「いいから話せ。」

慌てて手を振るアイチにピシャリと言い放つ。少しばかり語調を強めると、う、と唸ったアイチが、うつむき加減で頬をかいた。

「そ、その、僕、この前学校でクラスの子に、同じ質問されたんだけど…。その時の僕の答え…、笑われちゃって…。」


それを聞いて、ん?と、今度は疑問で眉根が寄る。

「『桜』って答えなかったのか?」

「う、…うん。実は…。」

頬をかきながら「ははは…。」と控えめに笑うアイチは、はにかんだような顔をしていた。

「…なんて答えたんだ?」

俺は未だ片肘を付いたまま、しかし、目線だけは合わせて聞いた。
瞬時考えてみたが、『桜』以外の答えを特段思いつかない。だから、アイチがなんと答えたのかは少し興味がある。




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