01 囁く声

「ねぇ、ちょっと待って。今、誰かの声、聞こえなかった?」

そう言って黒髪の綺麗な女子高生が前を歩いていた友達二人を呼び止めた。

「何?何も聞こえなかったけど・・・?」

そう首をかしげて答えたのは白い肌が印象的な白木 奈海。

「寝不足じゃないの?」

少し心配そうに尋ねたのは穏やかな顔つきをした黒羽 美雨。

そしてその二人を先ほど引き止めたのは神代 水城。

三人は学校からの下校途中である。

だが、学校を出て、しばらくした場所で水城が二人を呼び止めた。

「でも、確かに今・・・」

「水城、昨日もここで同じこと言ってたよね?」

聞き返してきた奈海に水城はコクリと頷いた。

「最初、ずっとそうなの。16歳の誕生日にお婆ちゃんが亡くなってからずっと誰かの声が聞こえるの。何を言ってるかはよくわからないけど、『ようやく見つけた』とかなんとか・・・」

水城の祖母は一人で水の神様が祭られている水那司(みずなし)神社という神社を切り盛りしていたのだが、水城の16歳の誕生日の日に倒れてしまった。

そしてそのまま帰らぬ人となってしまった。

今、その水那司神社は水城の家族が営んでいる。

「水城のお婆ちゃん、私も大好きだったよ。優しくて、物知りだったもんね」

美雨の顔に影がサッとかかった。

それは美雨の顔だけでなく、水城達が立っている道にも影がかかる。

「・・・・・・?」

不思議に思った水城が空を見上げる。

すると今まで晴れていたのが嘘のように灰色の雲が空を覆っていた。

「わっ!夕立かな?急いで帰ろう!」

奈海の一言で三人は自分の家へと急いだ。

物陰から水城を鋭い視線で見ている者がいるとも知らずに。

ただただ笑顔で帰っていった。




「じゃあ、また明日」

そう言って水城は美雨と奈海と別れた。

水城の家(神社)は少し山へ入った所にある。

そのため、一人で山の中を歩く。

周りはすでに薄暗くなっていたが、通りなれた道なので、少しも恐怖はない。

反対に時間帯はとても静かで水城はわざと遅くに帰る時もあるほどだ。

それほどこの時間帯が好きだった。

何故かはわからないが、この時間にこの道を通ると、側で誰かに守られているような、優しい感覚がした。

(神社があるからとか・・・?)

神社が見えてきたところで、山の雰囲気がいつもと違うことに気付いた。

サワサワ・・・サワサワ・・・

風がないのに、木々の葉が触れ合う音が聞こえる。

(何・・・?)

理由がわからないまま、水城は神社へと続く石段へと足をかけた。

「・・・・・・」

「え?」

誰かの声が水城の後ろから聞こえた。

だが、木々のざわめきにかき消され、しっかりとは聞こえなかった。

足を止めて後ろを振り返るが、誰もいない。

未だに木々は風もないのに、ざわめいている。

背筋の凍るような冷たく、憎悪の籠った声だった気がする。

気のせいだったことにして、水城は前を向いて歩きはじめた。

家に着いた水城は中に入ろうとして、また足を止めた。

家の前に見知らぬ男性が立っていたからだ。

しかも水城をじっと見つめている。

一瞬、お参りに来た人かも、と思ったが、それにしては服装があまりにも現実離れしていた。

白を基準とした神様を思わせる様な着物。

顔は恐ろしいほどの美形。

髪は短く、黒。

黒だが、嫌な印象を与える黒ではなく、艶やかな黒髪は絹糸を思わせる。

男性、と言うよりも、青年、と言ったほうが合っている気がする。

どうしてだろう。

初対面なはずなのに、この青年に会えたことを喜んでいる自分がいる。

昔の古い友人に何十年かぶりに会ったような・・・。

そう、再会を喜ぶ、そんな気持ち。

不思議な気持ちと戦っていると、いつのまにか木々のざわめきがおさまっているのに気がついた。










「・・・やっと、お会いできた・・」















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