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【2***.4.2.Wed】


さっき、つまりおれが人探しをして生徒会室を訪れた時、卒業、受験、その他諸々のごたごたをどうにかさせ、やっと春休みらしい長期休暇を迎えた生徒会一同は、皆してソファーや椅子、床にまで突っ伏して眠りこけていた。

美桜高校の全生徒の頂点に立つ生徒会長、雨宮守も、それは例外ではなかった。きちんと椅子には座っているものの、机に肘を立て、寝息をたてていた。

数時間前までの激務の為か、その顔は少し青白くはあったが、健やかなイメージを損なわないだけの気品が備わっている。そんな彼は、勿論、とも言うべきか、教師からも生徒からも、一目置かれる存在だ。本人もそれは自覚している。だからこそ、2年生でありながら、生徒会長という座に自ら臨んだのだ。それは3年生になっても続けるつもりらしいのだが。

いつでも自分の誇りを失わず、どのような困難にも立ち向かえるように。いわばそれは、鎖だった。
自分をがんじがらめに縛りつけ、決して何からも逃げられないように。

しかし、こうして頂点に立った彼を手こずらせる男子生徒がいた。

守の椅子の後ろあたりの床に寝転がっている、椿神夜、である。

最早、美桜高校においてその名を知らぬ者はいないだろうと言われるその生徒は、守とは別の意味で生徒達から一目置かれている。何故ならば、教師や他の生徒に悪影響を及ぼす不良学生を統率する、言うなれば『総長』の位置に立っていたからだ。。それも神夜が入学して2ヶ月が経った時には、既に神夜の立ち位置は不動のものとなっていた。
つまり、守の天敵とも言うべき人物である。

だが神夜は、生徒会に属している。
それが決定した当初、つまりほんの4ヶ月前は、教師達は驚きもしたが、それよりも大いに喜んだ。
当たり前である。教師の目の敵、校内一の問題児が、守の下についたのだ。
それはつまり、守が全校生徒を統率できると同じ―――だと、皆が信じていた。信じきっていた。疑う余地すらどこにもないと、守すら、そう思っていたのだ。

しかしながら、神夜はそんなに大人しくはなかった。
本人に悪気は全くないのだが―――それが問題でもあるのだが―――神夜は、生徒会役員になって尚、素行を改めたりはしなかった。

適当にサボり、適当に喧嘩をし、適当に教師に反抗していた。
時には仲間と共に悪事を解決させたこともあるにはあるが、少々手荒だったりなんだったりで、結局『問題児』の看板は剥がれてはいない。
本人は、さして気にもとめていないが。
なにしろ、守に言われた仕事をやっていれば良いと思っているのだ。

事実、守にとって神夜の存在は大きかった。
庶務、つまり雑用係に任命されてしまった神夜は、文句は言いつつも、そこそこに良い仕事をした。
以前に比べ、確実に皆の負担は減っていた。
神夜はもはや生徒会役員の誰しもに利用されている。つまり頼られているので、守を始めとした生徒や教師も、目をつぶっている箇所が少なくはなかった。
ぐちゃぐちゃな部屋の中に探し人を見つけてしまったおれは、その眠りを妨げぬよう、そうっと部屋を出たのだった。



さて、前置きはこの辺りにしておこう。
以下に記すのは、その神夜と守の仲が縮まる原因…いや、きっかけとなった事件である。

おれは単なる登場人物Cなのだが、その時当事者に聞いた話だ。
間違いは無い。
虚偽は無い。
台詞の一文字にも、記憶に狂いは無い。
暗記はおれの得意分野なんだ―――いや、いや、そんなことよりも―――始めよう。
まずは昨年の春、3月28日の話からだ。

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