16時―17時・・・Outsider・・・
《死なないわよ、私達は》
「そんなこと、分からないだろ」
《上手く逃げれるわよ。何なら貴方たちより器用よ?私達って》
「そういう問題じゃねぇだろ、」
《じゃあなに、街の人たちを犠牲にしろって言うの?》
「違う、そうじゃない!」
《じゃあどうしろって言うのよ!?》
荒げられた声に、月も平常心ではないのだと分かる。
ぐ、と言葉に詰まった2人に、月は続けた。
《私達は死にたくないし死なないわ、街の人も、だれも殺したくはないの。お願い、信じて、…助けて》
「…信じてやりなさい」
月の言葉に最初に口を開いたのは、神楽の祖父だった。
それに、神楽の祖母が続ける。
「信じて、助けてあげなさい。お友達が困ってるんでしょう」
「ワシは友達を信じてやらないような奴に育てた覚えはないぞ」
ヤンチャをするなと先程言ったではないかと、そう言うのも忘れ、その言葉に、2人はゆっくりと顔を見合わせる。
そして、…噴き出した。
「ぶっは!何だよ神夜その顔!」
「は、テメェこそ酷ぇ顔だ!なんて顔してんだよ、…相手は月とアディだぞ」
「そうだね、敵はたかだか爆弾だ。…月、爆破までの時間分かる?」
神楽がそう言うと、電話の向こうの声も明るくなった。
《そうこなくっちゃ!えぇと、爆破まではあと5分強、とりあえず学校に向かってるわ。今本屋を曲がったところよ》
「おっけい、神夜、この家地図帳あったよね」
「ああ、これだ。えっと…あった、本屋がこれで、学校がここだから今この辺だな。5分てことは…大体この範囲か」
「学校のグラウンドは?」
「駄目だ、雨でもサッカー部が使ってる。それより総合体育館とかの方がいいだろ」
「遠いよ。向かう途中で爆発しちゃう、…あれ、これは?なんだっけここ」
地図に指を滑らせながら話し合う2人の目が1点で止まる。
灰色で塗り潰された地点。
「ああ、そこ3ヶ月前に釣堀が出来たんだ。けど1週間前に潰れた」
「ふぅん、…釣堀?潰れた?」
「ああ、人が来なくて…ちょっと待て…釣堀の水はそのままだ!」
「魚はきっと居ないよね、売っちゃっただろうし、それに釣堀って結構大きいよ!」
「雨で水嵩も増えてる筈だ、聞こえたか月?映画館の方に向かう道だ」
《オッケーよ、道案内を続けて!》
月がアディに場所を伝えるのを電話越しに聞きながら、神夜と神楽はくたりと座り込む。
緊張の糸が切れたらしい。
「一瞬でどっと疲れた」
「まったくだ。アイツらなんであんなに危険なことに好かれるんだ」
「好かれてるんじゃなくて、危険なことを見つけては引っ張ってきて足を突っ込むんだよ」
「あぁそりゃ仕方がねぇな、だってあいつら」
おれたちの仲間だし。
綺麗に重なった声に、4人とも笑った。
それから、神楽の祖父が言う。
「あとは…その子ら次第か?」
「そーゆーこと」
「ま、離れてたら俺らに出来ることなんざ数少ねぇよ。なぁ月」
《そうね、貴方達がいたらまだマシだったかもね。まぁ良いわよ、結局こうだったかもしれないし?》
《ていうか、釣堀見えたけど!どっから入るの?》
《突っ込みなさい》
《っ分かったよ!なんかに掴まってて!》
焦ったようなアディの声と、至極冷静な月の声。あるいは、彼女はもう心の整理がついていて…自分達が無事に生還できると、信じて疑っていないようだ。
ガシャアン!!
という音が携帯から響く。侵入には成功したらしい。
「あと何分?」
「いや、秒だろ」
《ええ、あと10秒…9…8》
《見えた、釣堀!》
《5…4…行くわよアディ》
《オーケー!》
一瞬、音がなくなった。
しかし、次の瞬間ぱしゃん、と水の音が聞こえて、次いで何が何だか分からないような轟音。
携帯越しにでも分かる大きな音に、携帯が少し震えていた。
しかし、急にブツッと切れてしまい、ツーッ、ツーッという音だけが響く。
神夜はそれを取って携帯を閉じ、立ち上がった。
神楽もそれに習って立ち、うーんと伸びをする。
「もう行くの?」
神楽の祖母が言う。
「うん、一応ね。ちゃんと無事な顔見に行ってあげなきゃ」
「それから、文句を言われにな。『どうしてこんなときに限っていないんだ』って」
ニッ、と笑う2人に、神楽の祖父母は微笑んだ。
「良いお友達を持ったわね」
「またいつでも来なさい。来年じゃなくてもいいんだ、今度はその友達も連れてな」
「うん、分かったよ」
「ああ、それじゃあな」
玄関までの廊下を歩く。
ミシ、と、たまに床が軋んだ。
玄関に着くと、靴を履いて、2人同時に振り向いて、言う。
「「行ってきます!」」
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