14時―16時・・・Outsider・・・
神楽の祖父母は、お茶とお茶請けを用意して2人を待っていた。毎年この日に2人が来ると知っているので、2人が何も言わずに来訪しても、なんの問題も無いのだ。
神夜と神楽は正月なども寮で過ごすため、実に1年ぶりに家に戻ってきたことになる。
久しぶりとは言え、自分達の育った家はやはり落ち着くのか、神夜も神楽もすっかりくつろぎ、笑いながら話している。
神楽の祖父母も同様で、子供達が帰ってくるのは嬉しいらしく、2人の話に相槌を打ちながら、楽しそうに笑っている。
とても賑やかだった。
「でさ、神夜ってばおれが仕掛けたトラップに引っ掛かってやんの!すっげー面白い格好でさぁ」
「トラップなんか仕掛ける方がおかしいんだよ!つーか、コイツだって今朝ベッドから落ちたんだぜ、馬鹿だろ?」
「あらあら、2人ともヤンチャばかりして…怪我をしたら大変よ」
「婆さんの言うとおりだ、ワシは若い頃でもそんなヤンチャはしなかったぞ」
「いや、そこは『ワシも若い頃は…』って自慢話がセオリーだろ爺さん」
「それに、おれ達は大丈夫だよ。仲間がいるんだ、たくさん!いじめっこ気質のお嬢様や、機械と武道が得意なヘタレ」
「それから最強で優しい不良と、ドSで賢い生徒会長。他にも色々いるんだ、面白くて退屈しない奴らだよ」
「まぁ…お友達が沢山いるのね」
「ワシは婆さんさえいりゃあ満足じゃがな」
「お爺さんったらもう、やだっ」
「何そんなところでラブコメ展開繰り広げてんだよ…」
軽くげんなりする神夜に対し、神楽は大笑いしていた。
神楽の祖父母は、本当に喜んでいた。
母親達が亡くなってからは、笑うことも少なかった2人だ。神夜も神楽も周囲に刺々しく、友人関係が良好だという話は聞かなかった。
それが今や笑顔で仲間と称する人々を自慢するのだ。
年に1回しか会えないのを寂しくないと言えば嘘になるが、2人がこんなにも明るい笑顔で過ごせるならば、それも良いと心底思った。
「神夜、お茶お代わりー」
「ん?ああ」
「神夜、ワシもワシも」
「あら、じゃあわたしも」
「アンタら……ん?あ、ちょっと待て」
神楽に続き湯呑みを手渡す神楽の祖父母に神夜が呆れたような顔をすると、部屋に携帯の着信音が響いた。
音を出しているのは神夜の携帯らしく、神夜は渡された湯呑みを置いて、携帯を開いた。
「もしもし?」
《もしもし?神夜?今神楽も一緒にいる?》
相手は月だった。
神夜や神楽のクラスメイトであり、先の『いじめっこ気質のお嬢様』にあたる人物だ。
何やら焦っているようで、いつも感じられる余裕はどこにも見当たらない。
「ああ、いるけど…」
《貴方たち両方に聞こえるようにできる?》
「分かった」
携帯をテーブルの上に置き、スピーカーボタンを押す。
「爺さん婆さん、悪い、俺と神楽に話があるみたいなんだ。神楽、月だ」
「月?へぇ、もしもーし」
《神楽?聞こえるわね、オーケイ、よく聞いて。私とアディは今バスの中にいるの》
「バスん中で電話してんじゃねぇよ」
《私とアディ以外居ないわ。アディは今運転中よ》
「ちょっとよく分からないよ、それってどういう状況?」
《運転手も乗客も、さっき全部無理矢理降ろしたわ。実はね、このバスに時限爆弾が仕掛けられているの》
その瞬間、部屋の空気が固まったのは言うまでもない。
神楽の祖父母は信じられない、といったように2人の顔を見遣る。
神夜と神楽は顔面蒼白だ。
「ばっ…かじゃねぇのかお前!爆弾って何やってんだよ、お前らもさっさと逃げろよ!」
《貴方こそ馬鹿言わないで、この街中でこんなもの置いとける訳ないじゃない!私達はね、このバスをどこか広い場所で爆発させたいのよ。だから適当な場所を一緒に考えてほしいんだけれど》
「そ、」
「駄目だよそんなこと!」
神夜が言葉を発する前に、神楽が怒鳴った。
神夜は何回か聞いたことがあるが、神楽の祖父母や月は初めて聞く神楽の怒号に、空気がしんとなる。
神夜でさえ、久しぶりに見る神楽の怒りにびくりと身体を震わせた。
「駄目だ、絶対駄目。ありえないよそんなこと、そんな、そんなことをして君達は、…っ」
「…お前等が死んだらどうするんだよ」
言い淀んだ神楽の言葉を神夜が引き継いだ。
神楽の怒りは、しかし純粋な怒りではなく、怯えから生まれた怒りだった。
バスの中、8月5日。
2人の母親達は爆弾ではなかったが、バスの転倒事故による爆発、炎上で死んだのだ。
それと同じことが起こるかもしれないという恐怖に苛まれるのは、当たり前、あるいは仕方のないことかもしれない。
神夜は怒りとして発散しないだけであり、心境は神楽と全く一緒だ。
そんな2人の心境を知ってか知らずか、月は言った。
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