9時―14時・・・Outsider・・・


美桜高校からバスと電車で片道約3時間、田舎、という表現が合うようなのどかな町。
その町の山際にある丘に、神夜達は向かっていた。
2人とも黒いシャツに身を包み、少し大きめの花束を持っている。
都会とは打って変わったような青空に太陽が照り付ける中、駅を降りてからはずっと徒歩だったが、それでも二人とも怠そうなそぶりや、嫌がるような発言はしていない。
神夜はいつも通りの無表情で、しかしどことなく柔らかな雰囲気を纏いながら、神楽も姿勢をまっすぐに保ったまま、少しの笑みさえ浮かべて、話しながら歩いていた。


「おれ、最近思うんだけどね?」

「何を」

「暑いよね」

「そうだな」

「…。つっこみは無し?」

「暑いからな」

「神夜って性格変わったよね」

「そうか?」

「多分、いや自信は1%位しか無いんだけどね」

「もうちょっと自信を持てよ、よくそんなんで発言したな」

「すごい?もっと褒めてもいいよ?」

「今俺は一切褒めてなんかなかったんだが…?」


他愛のない会話だ。
しかし、ここに来て他愛のない会話が出来るというのは、一重に彼らが12年以上築いてきたもののおかげだろうか。

やがて丘の頂上につくと、2人の足がぴたりと止まる。
同じ位置で、同じタイミングで止まった彼らは、同じ様に真っすぐ前を見ている。

視線の先にあるものは、2つの石。
神夜の前には『椿 春菜』と書かれた石が、神楽の前には『柊 あすか』と書かれた石が立っている。
2人の母親達の墓石だった。

この丘は、神楽の祖父母の実家の近くにあるのだ。
神夜が神楽と共に神楽の祖父母の家に住むと決まったとき、2人の墓も一緒にあった方がいいだろうと、神楽の祖父がそう言った。
中学、高校と、都会の方へ行ってしまったために、現在住む寮からは遠く離れてしまったのだが、2人はそれでも、毎年欠かさずここに来ていた。


「…久しぶりだね」


神楽が呟く。神夜は何も言わなかったが、胸中は同じなのだろう。
それぞれの母親の墓前に花束を置き、目を閉じて黙祷する。
次に目を開いたタイミングも同時だった。


「成長、したよなぁ、俺達」


今度は神夜が呟いた。
神楽は一瞬意味が分からない、というような顔をしたが、次の瞬間には理解したようで、ああ、と目を細めた。


「小さいときは、この石は大きく見えてたし、…ここに来るのは好きじゃなかったよね」

「死んだ、っていうのを見せ付けられて、無理矢理に理解させられるような気持ちだったよな。…今でも、それはあんまり変わらねぇけど」

「けど、嫌じゃなくなった。不思議だよね」

「ああ、本当にな…」


そこで会話が途切れ、2人とも、名残惜しそうに墓石を見つめた。
掃除は神楽の祖父母がこまめにしてくれているらしい為、黙祷や合掌さえ済ませてしまえば、もうここに用事は無いのだ。


「…行くか」

「…うん」


神夜の言葉に、神楽が頷く。
2人の足が動き出したが、向かう先は駅ではない。
神楽の祖父母の家だ。

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