どこにでもありそうな当たり前の日常。
でも、響也と結婚した日から当たり前が特別で。そう、例えるならー…、
新しい家。そして、朝日が入り込む真新しいキッチンに出汁の良い匂いが広がっていた。
今朝のメニューは和食。炊きたてのご飯に豆腐とわかめのお味噌汁、ほうれん草の煮浸しに焼き魚と出汁巻き玉子。
典型的なメニューだけど、我ながら今日も上手く出来たと思う。
でもまだ私の朝の仕事は終わらない。学生の頃から続けている弁当作りに勤しんでいた。
「うん、我ながら完璧」
綺麗にお弁当箱に詰めたおかず達を見て満足そうに頷く。
メインは響也の大好きなそぼろご飯。
でもきっと、開けたら驚くよね。響也がどんな顔をするんだろうって想像したら笑いこみ上げてきた。
そんな私を背後から二つの腕が襲った。
「かなで」
「ひゃっ」
私は吃驚して身体を震わせた。心臓がドキドキと速さを増す。
それでもとっさにお弁当の蓋を閉めた私を誉めてほしい。見られなかったよね?と思いながら、首を動かして後ろの響也を睨んだ。
「響也ぁ、もう脅かさないでよ!」
「注意力散漫な奴が悪い。いつ襲われるか分からねぇだろ?」
「いつ襲われるかって…自分の家で常に警戒してる人なんていないよ〜」
まるで悪戯が成功した後の子供みたいに得意気な顔で笑う響也に反論する。
もうほんとに、後輩のハルくんにも「響也先輩は相変わらず子供みたいですね」って言われるくらい、こんなところは大人になっても変わらない。
そんなところも大好きだけれどね。
だけど、このままでは朝食の用意が出来ない。
早く食べて支度しないと遅刻しちゃうよ?
「響也、いい加減に離してくれないかな?」
「隠した弁当を見せてくれたらな」
「そ、それはダメ!」
「何でだよ?あ、もしかしてまた何か変な事したんだろ?」
響也の顔が渋った。そう、実は響也を驚かそうとしたのは今回が初めてじゃない。
以前にも、オムライス弁当の玉子にケチャップでメッセージを書いた。そのお弁当を見た仲間にからかわれたらしいけど、それも今回のこれも…
「へ、変な事じゃないよ。私の…響也をあ…愛してる…っていう素直な気持ちだもん」
愛の言葉を口にしたせいか、頬が熱くなるのを感じる。気持ちを伝えるのは何度しても慣れない。ううん、慣れるどころか、結婚前より恥ずかしい気がする。 恥ずかしかったから、それが移らないないかなと、前に回された響也の腕にそっと手を添えた。するとその腕に力が籠もる。
(あ、響也、ドキドキしてる)
よりいっそう密着したせいか、背中から伝わってくる鼓動に合わせるように、私の胸もドキドキを増した。移すつもりが移されてしまったらしい。
そんな私に追い討ちをかけるように響也の息が耳にかかった。
「俺も…愛してる」
「…っ…」
耳元に囁かれ、頬に唇が触れて、私は息を呑んだ。どちらも熱くて、顔だけでなく全身の熱が一気に上昇した。
(もうダメだぁ…)
熱を持て余した私は響也の腕に身を委ねた。
これが私達の日常。
ニアには「胸やけしそうだな」って笑われるほどの特別な…。
そう、例えるならー…優しくて甘い甘い、シロップ漬けの新婚生活。
END.
「君と過ごす夏」様の第2弾企画「未来へ」に提出させていただきました。
少し内容の補足として、かなでの喋り方を今までの作品と少し変えました。
かなで役の声のイメージが固定してしまったんで。
今までの方が良かったらごめんなさい。
そして旦那さんを悩んだ末、響也に落ち着きました。幼なじみ万歳!
最後に主催者様、とても素敵な企画をありがとうございました!
10.5.29 悠