ロイはらしくもなく緊張していた。心と体の繋がりとは立派な物だ、と考える。
緊張すると、掌に汗が滲むらしいが、まさしくその状態だった。お得意の発火布にもダメージがありそうな程の緊張である。
様々な状況に色々な場数を踏んでいるロイなのだが、先日、自身が後見人を勤める少女に告白をした。単純な三文字だったそれに、少女は困惑と動揺をあからさまに浮かべ、副官には遊びならば犯罪だと言わんばかりに銃口を向けられ、半ば強引に唇を奪ってそれを証明した。
女遊びが得意技といわれるものの、口に口付けを行った事はない。巷で噂になっているほど、それは徹底していた。なぜなら最初から本気でないため、気が引けたからだ。
ロイは取り敢えず待ち合わせのカフェに居座っているのだが、約束の時間よりも30分も早く来てしまった。女性との約束で早く来るのはいつもの事。しかし大抵10分から5分前に来る。あまりに早いと女性が不安になるから。
先程、店のマスターにらしくないね、と笑われたばかりである。事実、自分でらしくないと思っているから仕方がない。
さて、なぜここまで緊張しているか?
答えは簡単である。彼女が返事を今日返してやる、と言ってきたから、で。
どことなく思い出されるのは親友とのやり取りだ。もう冷やかしにも、お得意の家庭自慢もできなくなってしまった。もし、会えたなら。
もし会えたなら、エディと付き合う事になったと報告をしたいものだ、と思う。
あの男は、ロイの心情に気付いていた。さっさと告白しちまえ! なんてよく言ってくれたものだが、正規の恋心など初めてのロイは今まで手をこまねいていたばかり。
後押しになったのも、事実。
そうこう考えて、ロイは三杯目の珈琲を飲みながら空を見上げた。
エディはらしくもなく緊張していた。理由は言うまでもなく、告白され、その答えを言おうと、言う日になったからである。
予定時刻が近いため、慌て今の家を飛び出す。翻る淡いワンピースの裾。機械鎧だった手足は、血の通った生身になっており、もう暫く経つのだがまだ歩くという行為が楽しくて仕方がない。
しかし緊張の上ではそうもいかなかったりするのだが。
取り敢えずエディは、いつものように取り繕いつつ、ばくばく煩い心臓を静めながら、
「よぉ、大佐」
なんら変わらない憎まれ口で声をかけた。
バッグを持った手が、滑りそうだ。