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◇お試しキッス

「ええ!あ、阿部くん、キ…ス…したこと、あるのか!?」
「中学ん時に」
「へ、ぇ…」

今日は、阿部くんの家に遊びに来た。その、ふとした会話の中に出てきた新事実。
あ、阿部くん、オトナだったんだなぁ…。

「それでさ、ほら、三橋も最近可愛い子に好かれてるらしいじゃん。噂になってるぜ」
「えっ。それ、は…」

確かに最近、オレなんかに優しくしてくれる子がいた。
水谷くんに付き合っちゃえって言われた。でも、どうしたらいいかわからないよ。従姉妹のルリとも何を話したらいいか、いまだによく分からないくらいなのに。
それよりオレ、もっと速い球、投げられるようになりたいんだ。
一人考え込むオレに構わず、阿部くんは何かしゃべってたみたいだった。
気付いた時には、肩がくっつきそうなほどすぐ近くにいた。

「三橋…キスするチャンス来たら、こうするんだぜ」

え?と思った時には、阿部くんの唇とオレの唇が触れ合っていた。

「わ!!なっ、なに!?急、に!!」
「何って、キスの練習。したことないだろ?」
「…オレ…初、めて…」
「大丈夫だって!男同士はノーカウントだ」

阿部くんは笑ってオレの背中をぽんぽん叩いた。
けど、オレは、心臓がドキドキなって、何も返事ができないくらい動揺しまくっていたのだ。

「つーかおまえ今ちゃんと見てたか?あ、もう一回していい?」
「えっ!?や、でもっ」

あわてふためくオレの口に、またむにっとした感触が。

「阿部く、…恥ずかしいよ…」
「男が照れるな」
「お…男だって、」
「あ?」
「…男だって…あ、阿部くんみたいなカッコイイ人にキスされたら、は、恥ずかしいよ…」
「……」

正直に言ったのに、またキスされてしまう。しかも今度は、口の中に阿部くんの舌が入って来て、すごくいやらしかった。
れ、練習なのに、どうしよう。
頭の芯までとろけるような感覚に何も出来ず、気がつくとオレは床に伸びていた。

「あ…ごめん、やり過ぎた」
「だ、大丈、夫」

と言いつつ、オレの心臓はバクバク鳴っていた。
阿部くん、野球だけじゃなくって、キスも上手いんだ。
上から見つめられて、頬っぺた撫でられて。
なんだか…不思議な…気分…。

「三橋、可愛い…」
「え」
「三橋可愛い」
「えええっ!?」

女のとこなんかやれねぇ、俺が貰う!って抱きしめられた。そうしたら、阿部くんのいい匂いがしてきて、やっぱりオレは心臓が走った後みたいにバクバク鳴った。

どうしよう。
阿部くん、変!!

でも、オレにも変なスイッチが入っちゃったみたいだ……!!


2011/04/14