お前には敵わない



 親の仕事の都合で一人日本に残される事になった稔は、高校一年生の夏休み、ひょんな事から二人の姉妹が暮らす家に居候する事になった。
 
 落ち着いた大人の魅力を持つ姉は24才の大学院生。
 くるくる変わる表情が愛くるしい妹は少年と同い年。
 
 次第に姉妹は稔に好意を寄せ始め……
 
 二人の女性と一つ屋根の下、稔は毎日ドキドキしっぱなし!
 果たして稔はどちらとくっつくのか!?
 
 
「なんて、パンチラとかポロリとかある少年漫画的ラブコメディーにありがちな設定っぽくない?」

 落ち着いた大人の魅力を持つ姉であるところの、紗衣さんはにっこりと満面な笑みを浮かべた。
 いや、設定とか言われても。
 自分の置かれた状況を何でそんなさらっと漫画っぽいとか言えるんだ、よりによって軽いエロが入るやつ。
 
「パンチラもポロリも反対ー!」
「じゃあお風呂でばったり? 洗濯機の中に下着が残ってたのを発見? ねぇ稔くんはどっちがいいと思う?」

 俺に振ってくれるな!
 折笠とかとだったら別にどって事ない内容だけど、何が悲しくて女の人に答えなきゃいけないんだ。
 しかも、その設定とやらにもろ組み込まれてる本人に、だ。
 それってやって欲しいって言ってるようにも聞こえるじゃないか。どんな変態だ俺は。
 
「えーかたミーはあれだよね、ダボダボのパジャマの上だけしか着用してない状態で『一緒に寝てもいい? お兄ちゃん』っていうのが好いんだよね」
「誰がお兄ちゃんだ! そんなマニアックな趣味ねぇよ」
「やっぱ稔くんは妹萌えじゃなくて、フェロモンお姉さんに弱いのね」
「違います!」

 この姉妹似過ぎだ!
 畳み掛けるように攻撃してくるのが怖い。
 
 
 堂島が女だと俺が知ったのは一昨日の事。
 まだ暫らくはこの家にお世話になるから、紗衣さんに隠しておけるはずもなく、堂島は端から黙っている気もなかったようで、あっさりとあの日の出来事を全部話した。
 
 
 妹の話を真剣に聞いていた紗衣さんは、考えるように黙り込んだかと思うと突然ラブコメについて語りだしたのだ。
 
 実際に黙っていれば綺麗な大人のお姉さんなのに、喋ったときのこのフランクな態度とかズレた会話とか、ギャップになかなかついて行けない。
 堂島もよく変な事言うのは紗衣さんに似たんだな。さすがにここまでじゃないけど。
 
「あーあ、稔くんにフラれちゃったわぁ。香苗、これからは稔くんと幸せにね」
「お姉ちゃん……!」
「と見せかけて、実は裏でまだ姉と稔との関係は続くのだった……」
「なんと昼ドラ!?」
「続くも何も最初から関係なんてないじゃないですか! あなた彼氏いるんですよね!? 変な事言わないで下さい!」
 
 いい加減にしてくれ、居た堪れない……。
 なんで俺がこんな羞恥に苛まれなきゃならないんだ。
 
「ごめんねー、楽しくってついつい」
「かたミーのツッコミって安心出来ていいでしょ」

 ねー、と笑い合う姉妹に脱力した。ああそう、仲は良いんだろうけど。
 つまり俺はずっと遊ばれてたわけか。
 
「ほんとに良かったわね香苗、稔くんがいい子で」
「うん!」
 
 そんな嬉しそうにされちゃ何も言えない。
 それだけで軽く今までの悪ノリを帳消しにされたような気がしなくもないけど、まあいいだろう。
 


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