最終電車に駆け乗って家に帰る。
 長い長い一日だった。特に夜になってから。
 
「堂島の姉ちゃんの名前聞いたときから、まさかとは思ってたけど……まだお前があんな奴らとツルんでるとか信じらんないわ」
「ツルんでませんー、ちょっと顔見知りなだけですー」
「堂島のちょっとは深いんだよ」

 まあね、ウタのあの態度とか見てたら、ああ私って随分この世界に足踏み入れちゃったんだなぁとか思ったけどね。
 でもまだまだ一般市民です。
 
 姉は違うよ。だって不良な友達がいるらしいけど、稔自身は違うはずなのに、そんな稔が名前知ってたって相当なもんだ。
 
「改めて言うけど、稔一人で不良に喧嘩売るなんて無茶やったねー」
「無謀だとは自分でも思ってたけどな……、どうしても腹立って」
「相変わらずの友達思いで。でももうやらないでね、ウタに殺されちゃうんじゃないかって心臓止まりそうだったんだから」
「あんなバケモンみたいな奴には売らないし、そもそも売ったつもりもなかったんだけどな」
 
 私達があそこにいたのは偶然だっただけで、ウタにやられたのはただの勘違いのせい。
 でも私は相手がウタだろうと三下だろうと嫌なものは嫌だな。
 
 痛いのなんて二次元だけで十分だと思いませんか。
 
「ああいう人達は怖いからね、もし今度同じような事になったら私に言うように」
「俺はお前のが怖いな」

 何故。Why?
 稔に恐れられてしまいました。稔のがDVのくせに。

 それにしても。
 
「……可笑しいね」
「何が」

 普通に会話してるのが、変な感じ。
 だって稔は私に言いたいこといっぱいあるはず。
 
「私が女だったとか、そこは気になんないのかなって」
「お前女だったのか?」
「ウタ! ウタ!? いたらこの人の頭どうにかして!」
「分かってるよ! 気付いてる! だからアイツを呼ぶな!」

 本気で焦る稔は、狂犬ウタ様が相当怖いらしい。
 そりゃそうだろうけど。
 
 大きい声出したら痛かったのか、思い切り顔をしかめて。
 しかし自業自得というものです。
 
「驚いたに決まってんだろ。なのにお前の態度が……あーもういい。男でも女でも堂島は堂島って事で考えんの止めた。でもどうやってあの学校は入れたのか疑問ではある」
「へっへっへ」
「いやそこで笑う意味が分からん」

 裏口入学ってやつですよ、旦那。
 という意味の笑いです。
 
 言えないなぁ。
 言ったら稔は敬遠するんだろうなぁ。
 軽蔑もされるかも。
 こうやって隣に居る事も出来なくなるんだろう。
 
 
 いや、もしかしなくても、女だってバレた時点でもう無理なのか。
 
「……そっか」

 そうか、変な感じしたのは。
 稔の態度が何も変わらないものだから思い至らなかったけど、もう無理なんだ。
 女だって知られてしまったからには、あの学校には戻れないんだ。
 
 電車を降りて改札を抜けたところで立ち止まった。
 
 こんな簡単に崩れてしまうものだなんて思っていなくて。
 
 お姉ちゃんに忠告されたばっかりなのに、全然役に立てる暇もなかった。
 
「おーい、お前が先行かないと道分かんないんだけど。……堂島?」
「み、み、みのるー……っ」
「ええぇー!」

 ぼたぼたと涙を零した。
 稔は驚いたのかきょどっている。



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