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「香苗なにやってんの、失礼でしょう。ごめんなさいね浪形さん。どうぞ?」

 おろおろする私に代わって痺れを切らせた母が促す。
 
「お、おか、お母さん、お客さんが知り合いなの!?」
「通じる日本語で喋ってよ」
「ふっ!」

 笑われた! 大スター様に笑われた! めちゃくちゃショック。心に深い傷を負いました。
 
 母が何のためらいもなく居間に通そうとしているけど。
 全員大集合してるから、結構な人数いるのにコタツに入れるのかな。
 
 ……ていうかコタツ!? いいのか!?
 
「あ、じゃあ私お茶の用意」
「あんたはいいからこっちいなさい。紗衣、ちょっとお茶お願い」
「はーい」
「お構いなく」

 構うよ! 私の人生史上最も構うお客様だよ!
 あわあわしながら、浪形さんについて居間に入った。
 
「お久しぶりです先生」

 浪形さんは綺麗にお辞儀をして、父はそれに笑顔で応えた。
 
 そうだろうとは思ってたけど、てかそれくらいしか繋がりが見いだせないんだけど、仕事の依頼人だったのか。
 
 両親は法律事務所なるものをやっております。
 
 しかし私を襲う衝撃はこれだけでは済まなかった。こんなものは序章に過ぎなかった。
 
「父さん!?」
「元気そうだな稔。全く、夏に顔見せに帰ってくるかと思ったのに全然音沙汰もなしで、心配してわざわざこっちまで来たっていうのに……」

 半分身体を浮かせた稔が驚愕に目を見開いている。
 私みたいに芸能人!? マジで!? みたいなミーハーさからくるものじゃなくて。
 
 いま、なんてった? とうさん?
 
 お父さん?
 
「ぱぱぱ、パピーですか!?」
「香苗さっきから馬鹿丸出しになってるわよ」

 お母さん冷静なツッコミどうも!
 お陰でちょっと頭冷めた。
 
 駆け寄って稔の隣に腰を下ろす。
 意味ないんだけど、ずいと顔を近づけて声を潜める。
 
「お父さん? 浪形二見が!?」
「うん……、そうだけど」
「そうだけど、じゃないでしょーっ!?」

 最終的には服掴んでぐらぐらと身体揺さぶる。
 
 浪形二見だよ?
 こんなお父さんが欲しい、恋人になってほしい、結婚したい、息子が欲しい。
 どの年代の女性からも熱烈な支持を受け、尚且つ男性からはこんな風になりたいという憧れの的。
 
 一般女性と結婚し2児の父親となった現在でもその人気は衰えるところを知らない。
 最近は日本だけにとどまらず海外にも……そういや稔ってばお父さんが海外に仕事の基盤移したとかそんな事言ってたな!
 
 まさかそんな雲の上の存在とでも言えよう人が、父親だと?
 
「ちょ、稔サイン貰ってよ」
「自分で頼めよ」

 そこいるだろ、と目配せされ、見たら天下の浪形様はコタツで暖を取っておられた。
 
 ひぃぃ! うちのコタツが革張りの高級ソファになったような気がする!
 ていうか似合わないな。
 なんだろうすごい違和感。こんなコタツが似合わない日本人いるんだ?
 
「香苗ちゃん寒くないの? コタツ入りなよ」
「あ、えっと、お邪魔します」
「自分ちだろ。邪魔してんのあっちだから」
「親に向かってあっちって……。稔だってお邪魔させてもらってる身だろ。ホントもう、香苗ちゃんこいつ捻くれててやりにくいでしょう? ごめんね」
「い、いえ! 全然!」

 稔が捻くれ、あ、字が似てる!
 
 字はそっくりだけど、稔のイメージとは真逆の言葉だ。
 稔はストレートな人だと私は思うんだけど。
 
「ありがとう」

 浪形さんがふわっと柔らかく笑んだ。
 
 うわ。顔が赤くなっちゃうような、綺麗な綺麗な表情。
 でも前に見た稔のありがとうと似ていた。
 
 親子だ、なんかすごい納得。




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