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 西さんを探す必要はない。
 
 彼は言った事を違えないから。
 というか、言った事しかしないのだ、西さんは。
 
『俺がいっつもどこにいんのか、知ってるな?』

 それが全て。
 C棟に行けば西さんに会える。
 C棟以外ではきっと彼は会ってくれない。
 
 外がこんなにも賑わっているというのに、西さんは今も人気のない空き教室棟でたった一人で潜んでいるんだろう。
 
 何やってんだか。
 この時にしか楽しめない事を、力いっぱい楽しむのが学生の本分だっていうのに。
 
 まぁみんなに紛れてワイワイやってる西さんなんて想像つかないけど。
 キャラじゃないどころか、イメージぶっ壊れるよね。
 
 というわけでやってきました、初C棟です。
 とは言え、特に何があるわけじゃない。
 
 今は使われてない建物だけど、清掃業者の方々は手抜かりなくピカピカにしてくれている。
 他の棟と変わらず。
 特筆すべき事はない。
 
 西さんがいるという以外は。
 
 つか西さんどの部屋にいんだ?
 これ片っ端から探していけと?
 
 うわぁいチョーメンドー
 
 そんな無駄に費やす労力も時間も私にはない。
 これは裏ワザを使うしかあるまい。
 
 この禁じ手だけは使いたくなかったけど、背に腹は代えられないというか。
 
 ポケットから携帯電話を取り出してアドレス帳から西さんの番号を選んで、掛けた。
 
 ピリリリリリ
 
 遠くでコールが聞こえる。
 予想通りの無機質な機械音だ。
 ここは意外性を持ってアイドルの着うたとかだったら場が和んだのに。
 
 思ったより近いな。
 1階の、2番目の教室か。
 
 ドアノブに手をかけ一呼吸置いてから勢いよく開けた。

「悪い子はいねーがー!!」

 スコーン!!
 
 まだ鳴り続ける携帯電話が私の眉間に直撃しました。
 
 い、痛すぎて声にならないです……。
 
 女の子に容赦なく暴力振るう悪い子いた。
 
「西さんコントロール良過ぎるっ! デコのど真ん中にたんこぶ出来たらどうしてくれんですか!? フランケンはこうやって作るもんなんですか!?」
「うっせぇ、さっさとケータイ拾ってこっち来い」

 つっこんで!
 西さんさっきから私のボケかわし続けてるんだけど、これって立派な後輩イジメだよね?
 
「ったく……そうだろうとは思ってたが、やっぱこっちの番号は把握してたか」

 私から携帯を受け取った西さんは舌打ちしながら零した。
 
 その通り。私はちゃんと西さん達の番号を知ってる。
 だけど私の番号は教えていない。私の情報が不良さん達に漏れないように姉がしてくれたから。
 逆に彼らのを(勝手に)登録したのももちろん姉だ。
 
「にしても、えらく来るのが遅かったな」
「……来るつもりなんて無かったんですけど、西さんはこうなるって初めから解ってたんですよね」

 あんだけいつも西さんに怯えてる私が、来いと言われて来るはずがない。
 でも西さんは確信的な言い方をした。
 私がどうしてもここを訪れないといけない事態が起こるって解ってたんだ。
 



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