隼人が七海の病室に戻る途中、ばったりと朝陽と昌也に会った。

 嫌でも人目を引く朝陽が昌也の腕を引っ張って廊下を突き進む光景は、どうしようもなく目立った。

 朝陽は全く気にしていないが、げんなりしている昌也はそうでもなさそうだ。
 仕事場なのだから当然だろう。

 派手な見目の朝陽とのツーショットを患者や看護師達が興味津々の体で見ているのに、昌也が気づいてないわけがない。
 
 この後質問攻めに合うだろう事が予想出来ているし、朝陽を引き離そうと邪険にすればこちらもまた後々面倒な事になると、長年培ってきた勘が告げている。

「あ! 隼人くんどこ行ってたの」

 手を振る朝陽に隼人も寄ってきて、更に昌也は眉間に皺を寄せた。
 
 目立つ人物が倍に増えたからなのだが、この心情を察せられるのは今ここにはいない七海くらいだろう。
 
「榊と話してた」
「あら榊さん来てたのね」

 全く興味を持っていないと知れる、あっさりとした答えに隼人はそれ以上何も言わなかった。
 
「それより、七海起きたらしいぞ」
「ああそうそう。それで昌也と隼人くん呼びに来たのよ」
「……俺は朝陽から聞いたんじゃなくて、ナースコールで母さんから聞いたんだけどな」

 そして隼人はその昌也から今しがた聞かされた。
 だったら朝陽は何をしに来たのか。
 
 別に七海の事がどうでもいいと思っているわけではないだろうが、全てにおいて自分以外のものは適当に済ませる彼女だから、昌也達を探すうちに目的がすぐに逸脱してしまったのだろう。

 朝陽が言い訳を返すより早く、隼人は駆け出した。

 「走らないで下さい!」そんな看護師の注意も聞こえない。
 全速力で病室に向かった隼人を朝陽は笑って、昌也は呆れながら見送った。
 
 
 この二日間、生きた心地がしなかった。
 七海の身体的には問題なく、家族達も心配しているもののそこまで重く捉えてはいないようだ。
 
 だが他人の魂を背負うなどという、人の業を超えた所業を成した七海にどんな負担がいっているのか、身を持って知ってしまっている隼人は違う。
 
 身体に異常はなくても心が死んでしまう可能性だってある。
 勇人のように壊れてしまう事だって。
 
 七海に限って、とは思うけれど。
 
 また、他者の意識を取り込んだ七海は以前と同じ七海なのか?
 
 次に目を覚ました七海は、隼人を目の前にして前と変わらず接してくれるのか。
 
 何があっても、それも人生だと笑った彼女のままなのだろうか。
 
 不安を払拭するように乱暴にドアを開けると、ベッドに座っていた七海は目をぱちくりと瞬かせてさせて隼人を見た。

 目が合うのは三日ぶりだ。
 
 早鐘のように心臓が脈打つ。歓喜か緊張か。
 
「おはよう隼人。身体は大丈夫? 変なとこない?」

 ベッドでさっきまで寝ていた人に身体の心配をされてしまった。
 
 全力疾走してきた隼人より七海の方がされるべきなのに。
 隼人の方が先に気遣うはずの場面だ。
 
 けれど七海らしいその言葉。
 以前と何も変わらない表情。
 
 隼人は安堵に身体の力が一気に抜け、その場にしゃがみ込みそうになるのをドアノブを強く握る事で耐えた。

「起きんの遅ぇよ」




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