「こんなに自分が無力だと感じた事なかった」 隼人の知っている人間の世界は榊家の中だけだけれど、彼等を幸福に導けたと自負している。 結果的に勇人を苦しめる事にはなったが、ここに至るまでの大人数は確かに笑って逝った。 なのに七海と出会ってから一度でも彼女を助けられた事があっただろうか。 打ちひしがれる隼人の頭を今度は七海が撫でた。 「隼人は……何百年もずっと、人のためばっか頑張ってきたから、今はその分誰かに頼っても、いい時期なんだよ」 「頼ったせいでお前がこんな傷つくなんて嫌だ」 榊の人間でも、隼人は無理やり捕らえられ閉じ込められているのだと言う人が多いが、実際には隼人は自らの意思であそこにいた。 最初に手を貸そうと思ったのもその当時の榊家当主と気があったからで、庵があった方が雨風が凌げていいだろうと作ってもらい、隼人という名をくれたのは何代目だっただろう。 みんなみんな好きだった。良い奴らだった。だから願うだけ叶えた。 出ようと思えば一瞬で出られる。 そうしなかったのは隼人があの場所にいたかったからだ。 勇人だってそう。何をするでもなく二人でだらだらと過ごす時間が愛おしかった。 だから助けようとした。全ては隼人の意思。強要された覚えはない。 頑張ったという自覚はないし、本当にただの肉体の寿命が来ただけだった。 それなのに七海に甘えようとしたから、本当は何も頑張っていないのに七海を頼ろうとしたから罰が当たったのか。 「苦しんでるところなんか見たくない。お前なら解るだろ」 初めて会う榊以外の人間は、隼人に触れても平然としていられる稀な体質の人間だった。 重なった場所から伝わる熱の心地よさも、細くてちょっとでも力を入れれば折れてしまいそうな脆い作りをしているとか、頭を撫でられるくすぐったさも、他愛のない会話がこんなにも楽しいのだと、全部七海に教えられた。 人間と生活するようになって数百年経ってやっと、ずっとこうしたかったんだと気付いた。 手を伸ばしたかったんだ。温かさを感じたかった。 全てを教えてくれた七海を失う恐怖なんて知りたくなかった。 「だから……俺にも背負わせろ。俺だけでも七海だけでもない、二人で勇人と共にあろう」 力一杯に七海を抱きしめた。 七海は自分達の身体が青白い光を放っている事に驚いたけれど隼人の力には勝てず動けなかった。 蛍のような小さな光も二人の周囲を舞っている。 痛みにぼやける思考でその光が綺麗だと魅入っていると、いつの間にか隼人の顔が間近にあった。 「はや――」 名前を呼ぼうとしたのに唇を隼人のものに塞がれて声は飲み込まれた。 温かかった。ひどく自分の身体が冷たくなっていたのだと気付いた。 七海はもっと熱が欲しくて隼人にしがみ付く。 抱きしめ返してくれる事が途方も無く嬉しくて閉じた目から涙が流れた。 二人を包む光が濃くなるにつれて七海の痛みは引いていった。 end '12.01.28~'12.03.31 ←|→ back |