うぇるかむ・わーるど










「しっかし、どうなってんだろうねー」



ボヤ騒ぎから一晩が経った。逃げ遅れた子は何とか救出でき、奇跡的に怪我もなかった。

「あのままでは一大事になるところじゃった。行くところがないのなら、しばらくここに居なさい」と学園長さんに言われて私はとりあえず一晩泊めてもらった。元々旅をしていたのだから、野宿でも問題ないが、お風呂と食事と風雨を凌げる場所があるに越したことはない。「一晩お世話になりました。私たちは旅の途中なのでこれで失礼します」と出て行こうとしたのだが、この世界は追剥やら山賊やらなにかと物騒な人たちがいるという。出会い頭に殺されかけるなんていったい何の冗談かと思ったが、それは忍者に限らず意外とデフォルトのようだ。どんな世界だ。

そんなわけで今もこの学園に身を置いているのである。



『主の服装も我々ポケモンという存在も、この世界では異質です。下手に外をうろつけば不審がられます。場合によっては、あの少年のように何か危害を加えてこようとする者がいるかもしれません。それならば、ここにいた方がまだ安全です』

「でもさあ、折角異世界に来たんだから少しくらい」

『駄目です』

「じゃあ、リザードンに乗って上空からちょこっと」

『却下です』

「ねえ、るーかーりーおー」

『なりません』

「ううー」



座っていた縁側から足を投げ出してバタバタさせて不満を示す。ボールから出てきたルカリオは私の斜め後ろに正座して首を横に振った。いきなり刃物を突き付けられたことで、元から心配性だったルカリオの過保護具合に拍車がかかっている。



「ひーまーだーよー。ぶーぶー」

「ぶーすた?」

『それよりも、なぜあんなところにブースターがいたのでしょうか』



強引に話題を逸らされた。

足元にいたブースターがぴょんと私の膝の上に飛び乗る。あの時、レントラーが見つけた逃げ遅れた者とはこのブースターだった。というか、あのボヤ騒ぎはこのブースターが原因だったのだ。まあ、炎タイプのブースターだったからこそ、無傷で済んだわけだが。ブースターと言えば、イーブイが炎の石で進化した姿だ。野生でそうそういるものじゃない。それに、ポケモンが存在しないこの世界でなぜ野生のポケモンがいるのか。



『それは、ボクから説明しよー』



いきなり目の前に現れたのは青みがかった白い体と尖った白い頭、そして金色の大きな瞳を持つ妖精のようなポケモン。



「な、えっ…、アグノム…?」

『そーだよ。いや〜、実はちょっとディアルガとパルキアがケンカしちゃってねー。それを止めようとしたギラティナの力も加わって、大きな空間の歪みが世界のあちこちで起こっちゃったんだー』

「ディアルガとパルキアって、伝説のポケモンの…?それにギラティナって…、それ、ちょっとどころの騒ぎじゃないよね…?」

『お陰で世界規模で迷子になっちゃってる人や生き物がたっくさんいるんだよー。というわけで、この世界でさまよってるポケモンたち、頑張って捕まえてねー』



そう言って消えたアグノムの代わりに大量の空のモンスターボールが現れた。どんだけマイペース。










「………これ、モンスターボール何個あるの?」

『少なく見積もっても百以上はありそうですね。それに、ボールだけではなく、ポケモンのタイプに合わせたフーズ各種、傷薬もあります。木の実があまりないのは保存がきかないからでしょうか』

「相変わらず冷静だね、ルカリオ」







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