うぇるかむ・わーるど










私たちに刃物を向けた少年は、学園長という人の元へ私たちを連行した。扉を開けた瞬間少年が消えたことには驚いたが、部屋の中にいたご老人は構うことなく「入りなさい」と言った。取りあえず、老人の前に座る。ルカリオは出しっぱなしにしている。何だか不穏な雰囲気だし。



「お主、名はなんと申すのじゃ」

「ナナミと言います」

「どこから来た?」

「出身はカントーのマサラタウンです」

「学園の敷地内で、何をしておった?」

「旅の途中だったんです。ポケモンセンターの扉を開けたらなぜか空中を真っ逆さまに落ちていました。幸い私には空を飛べるポケモンがいるので、彼の力を借りて何とか地面に着地したら、たまたまここに着いたんです」

「ふむ…、そのぽけもんとやらはなんじゃ?」

「えっ、なにって…。あの、冗談ですよね?」

「冗談ではない。お主の後ろにおるそれがポケモンか?」

「ええ、まあ。確かにポケモンの一種ですが。あの、この子の名前、分かります?」

「いや、知らんのう。そのような生き物は今まで見たことがない」



なんということだろう。

奇妙なことを訊かれるし、御年70歳くらいに見えるこのご老人はルカリオを知らないし見たこともないという。カントーやジョウトならば確かに珍しいポケモンだが、今までの質問から推察すると、ポケモンという生き物すら知らないようだ。

私はポーチから図鑑を取り出した。



「ポケットモンスター、縮めてポケモンといいます。あの、この中に知っているポケモンいます?」

「いや、どれもこれも見たことのないものばかりじゃ。それに、先ほどお主の言っていたかんとーやまさらたうんというのも聞いたことがないのじゃが」

「えっ」










私はポケモン図鑑を持ったまま、ぽかんと学園長さんを見つめる。多分、随分間抜けな表情だったと思う。

学園長さんは興味深げにルカリオとポケモン図鑑を眺めて、あごに手を遣り、思案顔だ。



沈黙が続く中、ルカリオの静かな声が響いた。





『主、これはどうやら、我々は別の世界に来てしまったようですね』



冷静すぎやしませんか、ルカリオさんや。








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