「突然だけど、別れてほしい」 それが一週間前に婚約者から言われた言葉。 「なまえは強いから、俺がいなくても大丈夫だろ」 何を根拠にそんなこと言えるの。 「あいつは俺が守ってやらないとダメなんだ」 "あいつ"って何。 決定打は彼のこの言葉だった。 「あいつの腹の中には俺の子がいるんだ」 私の中の何かがガラガラと音を立てて崩れ去った。 仕事サボって何やってんだろ、私… 彼とよくデートした公園。 冬になりかけの今、吹き付ける風が少し肌寒い。 ベンチに座ってぼんやりと空を眺める。 いつから私は2番になったんだろう。 高校の時から7年、彼と付き合って、結婚まで考えて、マリッジブルーになるほど彼と真剣に向き合ってきたつもりだった。なのにその隙を、簡単にほかの女に攫って行かれるなんて。 自分の間抜けさと、あの男の思慮のなさに笑えてくる。 …このままいなくなってしまいたい 視線を前に戻すと、一人の男の子が湖の水面を見つめていた。 年の頃は、10代後半。高校生くらいだろうか。 男子高校生と思しきその少年は、徐に立ち上がって湖に向かって真っすぐ倒れて行った。 はぁ?! 反射で駆け出して、彼の腕をつかむ。 「ちょっとアンタ!!何やってんの!!!」 振り向いた彼の顔を見て驚いた。今の私と同じ表情をしていたのだ。 「お、俺、彼女に浮気されて、振られて、ショックで、だから、」 「だから、身投げ?馬鹿じゃないの」 「だって、自分のせいで俺が死んだってわかったら、ちょっとは、」 「それで仕返しのつもり?」 「は、初恋だったんですっ…だから、余計に、」 よく見ると、彼の両腕には運動部が筋力トレーニングなんかで使うパワーリストが巻かれていた。 本気で自殺を考えていたらしい。私は彼の両腕をつかんで視線を合わせる。 「ねぇ、日本人の平均寿命って知ってる?」 「え、い、いえ」 「約80歳よ。君まだ半分も生きてないでしょ」 「は、はい」 「だったら、簡単に人生諦めちゃうよりも、彼女よりもっといい女探して、いい恋愛して見返してやった方が、ずっと"仕返し"になると思わない?」 彼の表情に幾分か光が差した。彼から見た私の表情もそう見えているだろうか。 「たった一度の失恋で人生何もかも終わった、みたいな顔すんな!2度目3度目があるから"初恋"って言うんでしょ!!いつまでもへこたれてないでシャキッとしなさい!!」 ………なんか、私めちゃくちゃクサイこと言った… 自分の言葉が恥ずかしくて、彼に「じゃあね」と声をかけて、早足でその場を去った。 "シャキッとしなさい!!"か…私もあの子に言えた義理じゃないけどね けれど、自分の中のもやもやが少し晴れた気がした。 「あんなやつよりもっといい男見つけてやるっー!!」 大空に向かって宣言した私を軽快な足音が追いかけてくる。 「あ、あの!じゃあ、俺とかどうですか?」 それは新たな恋の予感。 |