可憐な非日常 | ナノ




医務室で売られた喧嘩を買ったあと、次なる委員会を求めて長屋の廊下を歩いていた。

そこに突然庭から何かが突進してきて、私は戸に右半身を強打した。

そのせいで、戸が外れて部屋の中に倒れる。



「ちょっ何っ?!」

「な、なんだっ?!!」



部屋の主は二人いたらしく、それぞれが驚きの声を上げる。「お騒がせしてすいませーん」と突進してきた何かに押しつぶされながら、顔をそちらに向けると、見たことある顔だった。

今朝、食堂で会った少年たちである。



「えっちょっお姉さん?!大丈夫!?」

「な、何とか…」



安否を確認してくれた少年に返事をしながら、未だのしかかっているものを見ると、これまた見知った狼だった。



「九エ門君!何してんの?」

『匂いがしたから!久しぶりだねナツメ!』



久しぶりってほどじゃないけど…。って驚きずぎて、うっかり普通人の前で動物相手に会話しちゃったじゃないか。

九エ門君は私に飛びついたまま、尻尾を振っている。会ったのはまだ2回だって言うのにすっかり懐かれた。狼ってこんなに警戒心の薄い生き物だっけ?でかい犬じゃないの?

てか、



『名前、知ってたんだね』

『アタシが教えたのよ』



壊れて開けっ放しになっている戸口からにょろにょろと部屋に入ってきたのはマムシのジュンコちゃんだ。



『ジュンコちゃんまで。何やってんの』

『散歩よ』



いや、散歩って…。向こうの方で「ジュンコー!どこだい、ジュンコ―!!」「くえもーん!帰ってこーい!!」って声が聞こえるんですけど。脱走してきたんじゃないの。

のしかかっていた九エ門君を落ち着かせて離れさせると、今度はジュンコちゃんが私の身体を這って首筋に収まった。またかい。



『戻った方が良くない?』

『いやよ』



いや、そうじゃなくて。戻った方が良いかどうかを訊いたんだけど。

九エ門君、ジュンコちゃんと戯れていると今まで茫然としていた少年二人がハッと立ち上がって、外に声をかける。



「ハチー!伊賀崎ー!」

「九エ門もジュンコもここにいるぞー」



「おー、勘右衛門、兵助、わりぃ、な…」

「ジュンコ、こんなところに…」



勘右衛門、兵助、と呼ばれた少年の声で、二人の忍たまがやって来る。二人はジュンコちゃんを首に巻き付け、九エ門君と戯れる私を見て固まった。当たり前である。



「ねぇ、固まってないでこの子ら何とかしてよ。君たちが飼育してるんでしょ」

「あ、ああ。九エ門、ほら、こっち来い」
「ジュンコー!早くそんな奴から離れてこっちへおいで!」



『いやよー』
『やだー、もっとナツメとあそぶー』



「2人とも嫌だって。っていうか、こら。年上に向かってそんな奴とは何だ、そんな奴とは」

「僕よりそんな女の方がいいと言うのか!?」



無視かい。



少年二人の情報を得るべく、九エ門君とジュンコちゃんを透視する。ハチ、と呼ばれた少年は、本名竹谷八左ヱ門。5年ろ組に在籍しており、年齢14歳、血液型B型 星座は射手座。明るく気さくな性格で責任感が強い。生物委員会委員長代理。代理、というのは、生物委員会に6年生がいないかららしい。

もう一人の少年の名は、伊賀崎孫兵。忍術学園3年い組に在籍する12歳。血液型B型、星座は山羊座。生物委員会に所属。毒蛇・サソリ等の危険な生き物を数多く溺愛、飼育している。通称毒虫野郎。人よりペットを第一に考える特殊な嗜好の持ち主だが、意外とロマンチスト。

生物委員会では、忍術学園に飼われている生物(半分以上は伊賀崎君のペットの毒虫や毒蛇など)を飼育している。毒虫などが良く逃げ出すので、一部の者から「あっても無くてもいいんかい」といわれてるらしい。



『それって君らが脱走するからじゃないの?』

『脱走じゃないわ。勝手に散歩に出てるだけよ』
『だって小屋の中って狭いんだもん。もっと広いところで遊びたい』



それを脱走って言うんだよ、ジュンコちゃん。
九エ門君に至っては、………小屋の改装でも頼んでみれば良いんじゃないかな。要求が伝わるかどうかは分かんないけど。



『アタシたちのことより、ナツメは何やってたのよ』
『ああ、私は各委員会の委員長と委員長代理に委員会関係の書類を渡しに』
『じゃあ、ハチに用があったんだね。引き留めちゃってごめんなさい』
『………君ほんとに狼?大型の犬じゃないの?狼とは思えないくらい可愛いいんだけど。シュンとしなくてもいいんだよ、九エ門君』
『じゃあ、そっちの2人にはもう渡したのね。2人は火薬委員会と学級委員長委員会よ』



そうだったのか。

ジュンコちゃんと九エ門君によると、つやのある黒髪の少年が火薬委員会の久々知兵助、うどんみたいな髪型の少年が学級委員長委員会の尾浜勘右衛門と言うらしい。学級委員長委員会って、………言いにくい。長い。






「何やっているんだい?」
「廊下で騒がしいぞ、二人とも」



ご乱心の伊賀崎君とどうしたもんかと考えている竹谷君に声をかけたのは、廊下からやって来た瑠璃色の装束を着た忍たまだった。これまた見覚えがある。

今朝、食堂で会った、反応が対照的だった双子である。

2人とも目を見開いて固まっていたが、双子の1人がキッと私を睨んで飛んできた。そして、苦無を私の首筋にあてる。

なんか前にもあったな、こういうの。





「貴様、やはり間者か。学園の動物たちを手懐けてどうするつもりだ」

『…ねえ、この頑固な勘違い野郎の名前は?』

『鉢屋三郎よ。見ての通り、忍術学園の5年生。ちなみに、あっちにいるのがクラスメイトの不破雷蔵。2人ともハチと同じクラスなの』

「へぇ」

「言っておくが少しでも変なまねをすれば、即座に貴様の喉元を切り裂いてやるぞ」

『九エ門君、鉢屋君が君のストレス発散に付き合ってくれるって。思いっきり遊んでおいで』

『ほんと!?わーい!!』



精神感応で九エ門君にそう言うと『さぶろー!あそぼー!!』と突進していった。



「はっ?!ちょっおいっ!まてっ!!ぎゃあぁぁぁあああ!!!!!」



喰われそうな勢いの九エ門君に慄いて鉢屋君は慌てて逃げ出した。あ、苦無落とした。

みんなが茫然としている中、1人ほくそ笑む。ざまあ。

そして、仕事の途中だったことを思い出し、九エ門君が突進してきた時に床に散らばった書類をかき集める。



「竹谷君、これ、委員会関係のお知らせ。久々知君と、尾浜君も」
「あ、はい」
「…確かに」
「…受け取りました」

「なんで先輩たちの苗字を知ってるんですか」



呆けていた竹谷君、久々知君、尾浜君にプリントを渡し、部屋を出ていこうとしたとき、伊賀崎君に声をかけられた。警戒の眼差しで睨んでいる。



「今朝、食堂で彼らの会話を聞いたからだよ」
『そう言えば、らいぞーも図書委員会よ。委員長ではないけど』
『マジか。図書委員会は確かまだだったはず』
「不破君、これ、図書委員会の委員長さんに渡しておいてくれる?」
「え、ああ、はい」
「じゃあ、私はこれで」



「お騒がせしましたー」と軽く詫びながら、私は部屋を出ていった。






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(…俺たち、食堂でお互いの苗字は呼ばなかったよな)
(名前で呼び合ってたからね)
(それに、僕の所属する委員会の事も知ってた。委員長の名前は吉野先生に聞いてたとしても、委員会に所属する一人一人の生徒の名前まで教えるかな?僕が委員長じゃないことも知ってたみたいだし)
(九エ門とジュンコの様子も変だ。まるで、あの人と会話してるみたいだった)
(やっぱり、胡散臭いですよ。あの人)









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