可憐な非日常 | ナノ

六年生の長屋の一室が開いているということで、私はその部屋をあてがわれた。



「食事はここへ運んでくる。風呂の時間も知らせに来るから厠以外はここから出るな」



用件だけを短く告げて部屋へ案内してくれた深緑色の装束の少年は踵を返した。



「あ、ちょっと」



引き留めようとして思わずつかんだ腕をすぐさま振り払われる。

名は潮江文次郎君。忍術学園6年い組。予算決めや支出計算など、学園の運営の一端を担っている会計委員会の委員長をしているらしい。忙しい身の上のようだが、それにしたってこれは…。

触れてみて読み取れた事実に内心びっくりである。15歳の身体で3日3晩完徹…、ありえん。



「君、睡眠時間はもっと取った方が良いよ」



怪訝な表情をされて「隈」と目の下を指さす。



「成長期の体に睡眠不足は良くない。身体の成長や病気への抵抗力も弱まるんだから」



まあ、こういう知識は主任である先生の受け売りだけど。

精神感応を含む複数の超感覚を持つ私は脳に負担がかかるので睡眠と栄養をしっかり取ること、と先生に口を酸っぱくして言われていた。

全くあの人も皆本さんに負けず劣らず過保護である。

それに、仕事上医療や病気に関する知識は少なからずある。



そんなわけで、超能力がなくても成長期の年頃の身体に睡眠が不足している状態は非常によろしくないということを知っている。身を持って。

睡眠不足になると、身長も伸びにくいし、疲れも取れないし、病気への抵抗力も下がる。

そんな身体で何をやったって集中出来ないし、能率は下がるだけである。



「余計な世話だ」

「そうだけど…。そんなくっきり目の下に隈作ってるの見て何も言わないなんてことは出来ないんだよね」

「お前には関係ない」

「まあ、お節介なこと言ってる自覚はあるから、君がどうするかは自由だけど。何をするにしても身体が資本でしょ。無理して身体壊したら本末転倒だよ」

「…」



潮江君は無視してそのまま部屋を出て行った。



まあ、仕方ないか…。



そう思いながら私は部屋に用意された布団を敷いた。










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