可憐な非日常 | ナノ




会計委員会で随分時間を食ってしまった。



えっと、ここから一番近いところは…



パラパラと書類をめくりながら歩いていると誰かとぶつかった。



「っと、わり…!」

「いえ、こっちこそ前方不注意で」



見上げると釣り目気味の松葉色の装束を着た忍たまだった。そして、その顔には見覚えがあった。

潮江君の記憶を透視した時にちょいちょい出てきた顔だ。どこかの委員会の委員長で、名前は確か…



「食満君。用具委員会委員長」

「なっ!?なんで俺のことをっ!!」

「…あ、いや、気にしないで。それより、これ。各委員会の委員長に渡すように言われたプリント」

「あ、ああ」



うっかり、読み取ったことを口に出してしまった。しかも本人に。気を付けないと。


プリントを渡しながら接触感応を展開すると彼はどうやら医務室に用があるらしい。しかも、以前見かけた善法寺君は保健委員会の委員長で今は丁度医務室にいるようだ。



「医務室に用があるなら私も一緒に行っていいかな?」

「…医務室は通り過ぎたが、お前も用があるのか」

「うん、まあ」



プリントを見ながら歩いていて、医務室を通り過ぎたのに気づかなかったので「気づかなくて、通り過ぎたこと」と曖昧に笑っておく。





方向を転換して医務室方面へ戻る。




「…本当なんだな、触れただけで何でも分かるっていうのは」

「何でもってわけじゃないけど、何で?」

「俺はお前と話したことがないが、俺の名も委員会も知っていた。それに、俺が医務室に用があることも」

「…君、言わなかったっけ?」

「言ってねぇ」



マジか。またやっちゃったよ。



「嫌じゃないのか?」

「何が」

「その超能力、とかいうやつだ」

「…まあ、苦労がなかったわけじゃないけどね。慣れれば便利だよ。読み取ったことを悟らせるようなへまをしなきゃね」



先ほどの失態を思い浮かべて苦笑する。

そんなことを話しているうちに医務室へ戻ってきた。大分行き過ぎていたらしい。余計な労力を使ってしまった。

食満君が、医務室の戸を開ける。



「伊作、いるかー?」

「食満先輩!今、伊作先輩は薬草園に…!?」



縦長のすり鉢みたいなやつで薬草(だと思われるもの)をすりつぶしていた少年が食満君の声で顔を上げて、彼の後ろにいた私を見て固まった。その少年は今朝食堂であった三郎少年たちが着ていた装束より淡い青色を着ている。体格から見ても低学年のようだ。

硬直した少年の代わりに奥で包帯を巻いていた井桁模様の忍たまが呼びかけた。青色の少年は初対面だが、井桁模様の忍たまは会ったことがある。きり丸君と同室の乱太郎君だ。



「食満先輩と棗さん!どうしたんですか?どこか怪我でも?」

「いや、私は委員長さんに委員会関係の書類を渡しに来ただけ」

「俺は、委員会中に角材で手の平を切っちまってな」

「うわっ!?食満先輩、結構深い傷じゃないですかっ!!」



固まっていた少年が復活して、慌てて食満君に駆け寄る。傷の具合を見て、「乱太郎!その包帯取ってくれ!」と指示を飛ばすが、立ち上がった乱太郎君が、床に置いてた包帯を踏ん付け、手を付こうとした先にすり鉢があってそれをかわそうとしてバランスを崩し、近くに置いてあったこれからすりつぶすのであろう乾燥した薬草の上にダイブして、草がひらひらと宙を舞う。





「あらら…」

「…相変わらずの不運ぶりだな」

「いったた…、ごめんなさい左近先輩。すりつぶす順番に並べてたのに、分からくなっちゃいました…」

「…いいから、包帯取ってくれ」



こけた乱太郎君に手を貸しつつ、包帯を左近先輩、と呼ばれた少年に渡す。



「乱太郎君、大丈夫?」

「は、はい、何とか。大丈夫です。慣れているんで」

「そ、そう。(慣れるほどこけてるんだ。)…あ、左近君、包帯」



私の声に左近君はビクッと肩を揺らして振り向いた。



「気安く名前を呼ばないでくださいっ!!」



キッと睨みながら、包帯をひったくる。随分と嫌われたものだ。いや、警戒されてるのか。



「大体貴女、どういうつもりなんですか?どうしてまだ学園内にいるんです?」



左近君は食満君の手に包帯を巻きながら、言葉を発する。決して私の方を見ようとはしない。

私も、散らばった薬草を拾い集めながら、彼の質問に答える。



「どういうつもりって言われてもなー。別にこの忍術学園をどうこうしようって気はないよ」

「嘘はいいです。学園内は外に比べて安全です。嘘をついてでもここに住みたいという人がいてもおかしくは無い。一体何が目的ですか」

「私の、っていうか私たちの目的は帰ることだよ。元の世界に」

「はぐらかさないでくださいっ!!第一、そんな人智を超えたことがあるわけないっ!!」

「いやいや、あるんだって。本当に」



頑なな左近君に私は苦笑気味に返す。この世界の常識では計り知れないことなのだろうが、それにしても頭硬すぎだ。もう少し柔軟な方が生きやすいだろうに。



『っなんで学園長はこんな奴をここに置いとくんだっ!!』

「そりゃあ、お互いに利があるからでしょ」

「?!!」



左近君がぎょっとして振り向いた。当然だろう。文字通り、心を読まれたのだから。



「信じるか信じないかは君たちの勝手だけどね。時には信じがたい状況でも受け入れて臨機応変に対応するのが、"優秀な忍者"ってものじゃないの?」

「っ出ていかないのなら追い出すまでだっ!!」

「おいっ川西っ!!やめろ!!!」

「左近先輩っ!!」



軽く皮肉れば、頭に血が上ったのか懐に手を入れて苦無を構える。食満君と乱太郎君が止めようとするが、生憎私はそれをさせてあげるほど優しくない。



「やってみなよ。ぼーや」

「っこの!!」



左近君は距離を詰めて苦無を振り下ろすが私は精神感応で彼の行動を読み取り、簡単にかわす。懐に手を伸ばし、特殊警棒を取り出すと、苦無をはじき飛ばす。

飛ばされた苦無を視線で追って私から目線が外れた一瞬の隙に、馬乗りになり、頭の上で彼の両手をまとめる。



「11歳か。その年じゃいくら相手が女でも、この状態から起き上がるのは無理でしょう」

「な、なんっ?!!」

「苦無、手裏剣、煙玉、催涙弾、目つぶし、痺れ薬、下剤…。うわあ、物騒なもの持ってんねー、子供のくせに。まあ、でも」



私は左近君に顔を近づけてにっこり笑う。



「こうやって押し倒されたら、何にも出来ないけどね」





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(なんて、ごめんごめん。からかいすぎたね)
(っ〜!!)
(おい、)
(ごめんって。そんな睨まないでよ、食満君。あ、これ、委員長さんに渡しておいてね、乱太郎君)
(…あ、はい)











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