可憐な非日常 | ナノ



私は食堂のおばちゃんと一緒に朝食の準備をしていた。学園の食事をすべて賄っている食堂の朝は早い。起きるのも一苦労である。



「棗ちゃん、手慣れてるわねー!」

「ええ、まあ」



寮暮らしだが、食事は大体バベルの社員食堂で済ませるので料理の必要はない。それでも、接触感応のおかげで道具はだいたいなんでも使いこなせる。それを差し引いても年頃の乙女として料理は人並みには出来るつもりだ。

食堂のおばちゃんは鍋に向き直ってお玉を掻きまわしている。



「味見してくれるかい?」

「はい」



差し出された小皿に口を付けて傾ける。出汁が効いていて、口の中にふわっと味噌の香りが広がる。「完璧です」と小皿を返すとおばちゃんは一つ頷いてにこりと笑った。

料理を作っている様は真剣だけど、私を疑っているとか、そういう雰囲気は感じられない。






………毒物を入れる、とか、考えないのかな…。



取りあえず、私たちの仕事は食堂と事務の手伝いということになった。しかし、そう言い渡されて私と春は互いに顔を見合せ、思わず大川さんに「いいんですか?」と尋ねた。

だって、信頼関係が築かれていない私たちの状況で食堂や事務の手伝いなんてこの学園に危害を加えてくださいというようなものだ。

食事の準備では、毒や危険物を簡単に入れられるし、事務の手伝いをしていれば重要な書類を目にする機会もあるだろう。そうなったら、情報流出の危険がある。(挑発したとはいえ、)ボディチェックや持ち物検査がなされなかったことと言い、ここのセキュリティは甘すぎやしないだろうか。

そのようなことを聞くと、大川さんは当然監視は付ける、と言った。忍術学園の先生方は簡単に出し抜かれるような間抜けではないし、何より食堂のおばちゃんは学園最強だと。

前半はともかく、後半はどういう意味?と首を傾げたけれど、料理をしているおばちゃんを見ているとその意味が何となく分かる気がする。




肝っ玉母ちゃんっていうか、日本の母ってカンジ…。確かに、かなわないかも…。



最強ってそういう意味か、と納得した。





「さあ、そろそろ子供たちが来るわ。棗ちゃん、ごはん、よそってくれる?」

「はーい」











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