可憐な非日常 | ナノ

朝、食堂。

その厨房で私はせわしなく動き回っていた。

忍たまたちからの好奇とか懸念とか警戒とかの視線を気にしていられないくらいには忙しい。

食堂が混むピーク時、おばちゃんはいつも一人でさばいているのか…。

おばちゃんすごい。

春がいれば瞬間移動でもっとスムーズにさばけるのだろうけど、生憎あいつは裏で巻き割りの最中だ。まあ、春がいたらいたで忍たまたちからの言葉にいちいち反応してしまうだろうから、かえって良かったのかもしれないが。



「はい、Aランチおまちどー」

「…」



カウンター越しに渡すと、不審な目は向けられるものの無言で受け取って去っていく。

警戒はするが朝食抜きで授業を受けるのはきついからだろう。内心は私がここにいることに不満たらたらだが、口には出さないので私も何も言わない。

私は何も聞いてない。視てない。仕事に集中。それが一番だ、うん。



と、思っていたのに…。



「間者かもしれないやつが触れたものなんぞ食えるか」



そう言ってお盆を突っ返してきたのは瑠璃色の装束を着た少年。

同じ顔をしたもう一人の少年は「さ、三郎…!」とおろおろしている。双子だろうか。見た目はそっくりだけど、性格は全く違うようだ。二人の後ろの髪がボッサボサの少年も一瞬目を見開いたけど、成り行きを見守るように動かない。あれ、何となく見覚えが…。どっかで会ったっけ…?



にしても、この三郎という少年、顔に、というか態度に出しすぎだ。これでは、相手の尻尾なんてつかめないだろう。

って、余計なお世話か…。



「…はあ、そうですか。じゃあ、次の人、注文をどうぞ」

「えっ?!」

「はぁっ?!」

「なっ?!」



三者三様の反応を見せてくれたところでもう一度、「後が閊えてますから早くしてください。注文をどうぞ」と催促する。

正直、朝の食堂の忙しさは半端じゃない。おばちゃんと二人でさばくのも大変なのだ。さっさとしてくれ。



「おいっ!どういうつもりだっ!!」

「君が言ったんでしょ、私が触ったものは食べられないって。ほら、そっちの君、早く注文」

「えっ、あ、えーっと、う、うーん」



「三人ともなーにやってんの?」



ボサ髪の少年の肩に腕を回しながら、尋ねたのは何やら特徴的な髪型をした少年だった。…うどんみたい。忍び装束の色が同じだから、同級生か。その後ろには色白でつややかな黒髪の少年もいる。



「勘右衛門!」

「朝飯食べないの?今日の実技、三組合同の模擬戦だから食べとかないともたないよー。あ、お姉さん、俺、Bランチで!」

「俺はAランチを」

「豆腐ついてるもんねー、雷蔵、八左ヱ門、先行って席取っとくから」



「早くしなよー」と、お盆を持って去っていく。序に件の三郎少年はふてくされて彼らと一緒にいなくなった。



「すんません。Aランチ3つ。雷蔵もAランチでいいよな?」

「あ、う、うん…」



友人に尋ねられた双子の片割れがはっと顔を上げて頷いた。寝息が聞こえたぞ、今。立ったまま寝てたのか。大丈夫なの、この子…。



「…さっきの彼、食べないかもよ」

「さすがの三郎でも朝飯抜きで授業受けるのはきついはずですから…。それに、おばちゃんの領域である食堂で並の人が何か出来るとは思えないし」



とボサ髪少年は苦笑した。その台詞に友人への心配とおばちゃんへの信頼が伺える。人を疑えと教えられていても根本は素直な気質なのだろう。いい子だ。



「はい、Aランチ3つ…!」

「どうも…、どうかしました?」



お盆を手渡す時に手が触れて彼の思考が流れてくる。そうか、彼が九エ門君の言ってたハチさん、か。それに、私がジュンコちゃんと初めて会った時に天井裏に忍んでいたのも彼だ。正確には双子君たちもいれて、彼ら、だが…。

動揺を悟られないように「何でもないよ」と営業スマイルを張り付ける。彼は、首をかしげながらも片割れ君と一緒に友人の待つテーブルへと向かった。





あの落ち込んでいた場面を見られたのか。うわ、恥ず…。次からは気を付けないと。

注文を取りながら、これからは不用意に隙は見せないと、私は心に誓った。












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