可憐な非日常 | ナノ

「して、お主は何者かの?」



目の前に佇む老人はこちらをまっすぐに見つめて尋ねた。

周りには黒装束の男性と深緑色の装束を着た少年が数人。それと、天井裏にも何人か。

読み取れる思考は物騒なものばかりだ。



ただ、倒れた子供を届けただけでこの仕打ちは一体どういう了見だろうか。



道端に倒れていた子供は睡眠不足で寝ていただけだった。身体をゆするとうっすらと目を開け、けれどすぐにこてんと気を失ってしまった。

慌てて接触感応で読み取ると、どうやら3日3晩、子守だのペットの散歩だの弁当売りだの内職だので働きすぎてまともに睡眠をとっていなかったということが分かった。念のために視てみたが身体は内も外も特に異常はないようだった。

その子は"忍術学園"なる学校の生徒だということが分かり、透視能力で探し出して運んできたのだが、門で事務員さんに子供を渡すや否やいきなり黒装束の人に捕まえられたのである。

「お前、何者だ」「ただの一般人です」「何しに来た」「子供が倒れていたので休ませる場所を提供してほしくて」「その格好は何だ」「制服です」「どこから来た」「東京です」「目的は何だ」「とりあえずもとの場所に帰ることですかね」

などという問答が続き、埒が明かなくなって私は首に刃物を突き付けられ半ば脅される形で老人の前に連行されたのである。



それにしても…。





「何者か、と言われれば、未来人ということになるんでしょうかね」



最初にいた森の中で読み取ったこと、少年の記憶から読み取ったこと、そして今周りにいる人物の思考から読み取れることを総合して、私はそう答えた。

本当は異界人と言った方が正しいかもしれない。

今の時代はおそらく室町時代末期。武士がいて戦があった戦国乱世。
その割に、この時代にはないはずのものや単語が存在する。
何より、変な名前の城があって、同じく変な名前の大名がいる。少なくとも小学校、中学校、高校の教科書には載っていない名前だ。

今の状況も十分命の危険があるが、流石に異世界から来ました、なんて言えば何をされるか分かったもんじゃない。

特務超能力者の制服を着ている時点で、もうごまかしが効かないので超能力のことは伏せてある程度は話すことにする。



「ほお、未来からのう」



連れてこられた場所は、この忍術学園の学園長の元。名を大川平次渦正というらしい。威厳たっぷりなその存在感に多少体がこわばるものの、私は「はい」とだけ頷いた。一癖ありそうな目の前の老人もだが、体中に突き刺さる敵意に満ちた視線に私は頭を悩ませた。ちなみに門の前で私に刃物を突き付けた黒装束の人は相変わらず私の喉元に刃物を当てている。

考えていることは、読んでしまえる私の方が悪いので、もう心の中で何を思おうとどうでもいいが、こうも視線が突き刺さると居心地が悪い。忍者なら相手に悟らせないように警戒するくらいはしてほしい。

ちくちく刺さる視線にどうしたもんかな、と思いながら大川さんの次の言葉を待っていると、彼は予想の斜め上を行く発言をした。



「お主、ここに住まんか?」



「………は?」





「「「「「はぁぁあああ!!??」」」」」

「な、何をおっしゃるんですか学園長!?」
「このような奇怪な者の言うことを信じるのですかっ!!」
「敵の回し者かもしれないんですぞっ!!」
「間者や暗殺者だったらどうするんですかっ!!」



しばしの間と絶叫ののち、後ろから口々に遠慮会釈ない言葉が飛び出した。



確かに、この状況を信じろなんて無理な話だろうし、私自身まだしっかりと把握できているわけじゃないけど。

仮にもお宅の生徒さん届けた人間に対してその言い草はないんじゃないの!?

あまりの言われようにさしもの私も我慢の限界である。胸のリボンに手をかけ、するっと外す。続いて、シャツの上に来ている上着を脱いだ。

「ちょっ、何をっ?!」

「そんなに疑うなら徹底的に調べていただこうかと思いまして。私が身に着けている服や私自身の身体を気のすむまで調べれば、私が間者や暗殺者ではないと分かるでしょう?」

一番近くにいる黒装束の人を見上げると、他の黒装束の人と比べて比較的若く見える彼は少し顔を赤らめてたじろいだ。その動揺した様子に私は内心ほくそ笑む。



「ほっほっほっ!威勢の良い娘じゃのう」



大川さんは朗らかに笑う。私は、前を見据えた。



「要は、不審人物を手元に置いて目の届く範囲で監視しておこうと言うわけですね」
「肝が据わっているうえに頭も切れるようじゃのう」
「どうも」
「まあ、そう言うわけじゃ。このまま帰してもお主のような奇特な者の存在を知ったからには調べないわけにはいかんしのう。窮屈じゃろうが、しばらくここにいてもらおうかの」
「構いません。どうせ、帰るあてもありませんし」



私のことを調べても、この時代で私の情報が集まるとは思えない。それに、現状を打破する案がない以上、いつになるかはわからないが、帰れるまでどうにか生活していかなければならない。この時代で生きていく術を知らない私が今ここで抵抗するのはどう考えても得策ではない。

疑わしきをすべて罰せられてはかなわないのである。












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