可憐な非日常 | ナノ


「棗さーん!」


「おー、きり丸君……と、クラスメイト、かな?」






「「「「はい!僕たち一年は組の良い子たちでーす!!」」」」


「…自分らで言っちゃうんだ」



私の呟きが聞こえたらしいふっくらとした少年が、えへへ、と照れ笑いを浮かべた。

褒めたわけじゃないんだけれども…。





「「「「●※‡★◎☆○▼!?」」」」



「………うん、一人ずつお願い」



井桁模様の装束を着た少年たちが一斉にしゃべるのでうまく聞き取れない。

それにしても好奇心旺盛というか、もう少し警戒心というモノを持った方が良いと思う。不審人物相手に。

面識のある6年でさえ、彼らにとって不確定要素の多い私たちに対して必要以上に近づこうとしないというのに。



「異世界から来たってホントですか!?」
「特殊な能力ってどんなのですか!?」
「おいしい食べ物ありますか?」
「剣術出来ますか?」
「火薬銃って異世界に有りますか?」
「異世界に忍者はいますか!?」
「からくり好きですかー!?」
「馬好きですか!?」
「ナメクジ好きですか〜?」
「お二人は恋仲なんですか!?」


「えーと、まず、異世界から来たってのはホント。特殊な能力っていうのは、また追々ね。美味しい物はそれはもうたくさんあるよ。剣術はあんまり…、格闘技や棒術の方が得意かな。火薬銃はないけど、もっと殺傷能力のある銃なら使われてる。私の同僚の女の子は百発百中だよ。絶対外さない。忍者もいないよ。からくりは好きだよ。罠を作るのって楽しいよね。馬は好きだけど、ナメクジは、ごめん、苦手です。…そんな悲しそうな顔しないで、お願いだから。そして、私たちは恋人ではありません」



というか、傍から見れば私たちはそう見えるのか。私の好みは年上なのだけれど…。2つも年下の春とそう見えるとは…。

室町時代なら春くらいの年齢でもう大人なんだっけ。これから同じ部屋で寝泊まりするわけだし、そうみられるのも無理ないかな…。

春は興味なさそうに私の半歩後ろくらいで欠伸をしている。私たちへの質問なんだから春もちょっとは答えてほしい。全部一人で答えてしまったじゃないか。



「ところで、私も言いたいんだけど、君たち、もうちょっと警戒心ってモノを持った方が良いよ。君らの先輩たちを見てみなよ。情報収集も大事だけど、慎重になった方が…」

「なんでっすか?」



中腰になっている私の瞳を見つめながらきり丸君はきょとんとして尋ねた。



「何でって…、大川さんが言ってたでしょう。異世界から来た特殊能力を持つ人間なんだよ。危険かもしれないって少しは警戒するのが普通でしょう」

「確かにそうですが、あなたはきり丸を助けてくれたんでしょう?」

「それはそうだけど…」

「ぼくたちの仲間を助けてくれたんだし、そんな人を疑うなんてしませんよ」

「何よりぼくたちは組の勘が大丈夫だって言ってます」

「………勘、なんだ?」

「そうです。は組の勘って結構当たるんですよ」





朗らかに笑うは組のみんなに私自身の心もなんだか少し軽くなったような気がする。





「…甘いなぁ」

「いいんじゃない?子供なんだし」



純真で素直な彼らが少し、うらやましい。

たまごとはいえ忍者の彼らには殺気むき出しで警戒されるだろうと思っていたけど、子供の純粋な笑顔は癒される。

じゃあ、と私は彼らと視線を合わせるようにかがんだ。





「お近づきの印に」



そう言って差し出した右手を11人分の小さな手が握り返した。











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