可憐な非日常 | ナノ




そろそろ太陽が中天にかかるという頃。

これが終わったらお昼ご飯の準備の手伝いに行かなきゃな…。

ラスイチになったプリントを眺めながら、廊下を歩いていると庭のほうから名前を呼ばれた。




「見つけた!棗!」


にょきっと深緑色の忍び装束を着た少年が地面から顔を出す。………何をしていたのだろうか。

しかも、ナチュラルに名前を呼び捨てにされた。



深緑色はあまり人数が多くないかせいか、何となく見覚えがあるような気がする。

そんなことを考えているうちに少年は目の前にやってきて、あろうことか私を俵担ぎしてそのままかけていく。肩が腹に食い込んで地味に痛い。



「よし!いくぞ!いけいけどんどーん!!」
「ちょっ、くるし、やめ…、………よ、う…」

























「連れてきたぞ!」

「な、何やってるんですかっ!七松先輩!!」

「だ、大丈夫ですか?」

「………魂が抜けそう」

「うわぁああ!!棗さんっ!しっかりっ!」



ありがとう、金吾君。君は私の癒しだよ。

ぐわんぐわん視界が揺れる。

七松先輩と呼ばれた少年は紫色の装束を着た少年に何やら怒られているようだが本人はなんのそのといった感じでからっと笑っている。

走っていた七松君よりも運ばれていた私の方が疲れているとはどういうことだ。



「では、さっそく裏々々山までマラソンだ!」

「あの、七松先輩!」

「なんだ滝夜叉丸、マラソンではなくバレーの方がよかったか?」

「そうではありません。彼女に自己紹介をお願いします」



「七松先輩と金吾以外は初対面です。それに、七松先輩も彼女にご自分のことを話されていないでしょう」と滝夜叉丸君とやらが言う。

確かに私は金吾君のことは知っているが七松君とやらのことは知らない。





「私は六年ろ組の七松小平太だ!委員会の花形、体育委員会の委員長だ!」

「は、はあ…」

「四年い組、平滝夜叉丸といいます。以後お見知りおきを。座学も実技も成績優秀で、戦輪を使わせれば学園一!おまけに見目麗しく、ぐだぐだぐだぐだ…」

「…」



これは自慢話か…。自己紹介じゃなかったのか。

ポカンとしていると袖をくいくいと引っ張られて振り向くと金吾君が見上げていた。



「滝夜叉丸先輩はこうなると止まらないんです。お気になさらないでください」

「そ、そう。ところで萌黄色の装束を着た少年が食堂の方に向かってるけど、もうお昼?」

「え!?次屋せんぱーい!!」



「これから委員会活動ですよー!!!」と金吾君が慌てて呼び戻しに行く。



「次屋先輩は無自覚な方向音痴なんです。気が付いたらどっかに行ってることが多くて」

「そうなんだ…、大変だね」

「えへへ…。僕は二年は組の時友四郎兵衛です。よろしくお願いします〜」

「あ、こちらこそ」



ぺこっと頭を下げる四郎兵衛君に習って私も頭を下げる。

頭を上げて目が合うと四郎兵衛君はにこっと笑う。なんだか周りにお花が咲いているような…。

四郎兵衛君に癒されていると次屋君とやらが金吾君に手を繋がれて戻ってきた。

微妙に視線をそらし、片手を頭にやって、いかにも胡散臭いものを見るような目つきだ。少しは隠せ。



「三年ろ組、次屋三之助です」

「改めて!一年は組、皆本金吾です!」

「みんなもう知ってると思うけど、椎名棗です。よろしくお願いします」

「どうやって学園長や山本シナ先生を誑かしたんっすか」

「…はい?」

「だって、あの人達がその辺の女に騙されるとは思えないし。いや、たとえ凄腕のくノ一でも一筋縄ではいかないような人たちだし。それがアンタのいうちょーのーりょくってやつですか?」

「いや、違うから」



催眠能力じゃあるまいし、私にそんなことは出来ない。



「じゃあ、動物たちはどうなんですか。孫兵が言ってました、ジュンコが異様にアンタに懐いてるって。それに竹谷先輩の狼も。忍者に飼われている動物たちがそう簡単に他の人間に懐くとは思えません。どうやって手懐けたんすっか?」

「ちょっ次屋先輩!なに言ってるんですか!?」

「だってそうだろう金吾。不思議に思わないのか?お前だって学園長先生の言っていた特殊な能力ってものが気になるだろう」

「そ、それは…」

「つ、次屋先輩、それくらいに。金吾も。椎名さん、困ってるから」

「いや、大丈夫だよ。四郎兵衛君、ありがとうね」



四郎兵衛君と金吾君の頭をそれぞれ撫でる。不穏な空気を感じてか、表情が心配そうだ。



「次屋君、私は別に誰も騙してない。ジュンコちゃんたちも、手懐けるって表現は正しくないなあ。友達になったって言う方が正しい」

「友達?ジュンコたちと?」

「そうだよ。それから、金吾君」

「は、はい!」

「私の力が気になるなら、今度手合わせしよう。そしたら分かると思う」



「へ?えぇっ!?」と困惑している金吾君に私はにこりと笑った。










++++++++++++++++++++++++++++++



(金吾だけとはずるいぞ!棗!私とも勝負してくれ!)
(えー、君手加減知らなさそうだし、怪我しそうだから嫌なんだけど…)
(文次郎や仙蔵を簡単にやりこめていたではないか!私とも勝負ー!)
(えっ!?)
(あの、潮江先輩や立花先輩を…)
(嘘だろ…)
(僕、…ど、どうしよう…)
(いや、金吾君、おびえないでよ。ちょっと気絶してもらっただけだし、立花君に至っては平和的解決を)
(なあー!勝負ー!)
(アンタは黙れっ!!)











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